1897(明治30) 年1月8日


 一月八日 金 (房総旅行記)
 少しく曇つた方だ 朝九時頃ニ小代が立つた 十時過ニ伊三郎の処ニ行たら手本ハ何か買物ニ行たとの事 仕方がないから昼後に来るからと云ひのこして立ち去つた 夫れから久米が百尺崖でやつて居るから其方へ行た 昼めしハ勝見屋でやらかした 今日出た下女ハ此間身の上話をしたおよしとか云ものでなくおたけとか云て東京赤坂のもので此処ニ来てから半年計ニなるのだそうだ めし後に又伊三郎の処ニ行て見たら今度ハ手本ハ内ニ居たが目が悪いとか云て手本ニハならず アヽもう此の画ハ到底だめだとあきらめてやめにした 此の儘で内へ帰るのハ残念だから景色を一枚やつた 夜食と為つて見るといかニも淋みしい 広島から来て居るお竹さんと云のが話ニきて此の土地の風俗ニ付ての話などやつて笑ハしてくれたので面白く時間をたゝした