本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1897(明治30) 年1月3日

 一月三日 日 (房総旅行記) 朝皆で浜ニ画をかきニ出た 高島もやつて来た 又序ニ浅井と二人で高島が昨夜から宿りニ行つて居る浜の先きの方の村の鶴よしと云宿屋を見ニ行た 午後は曇で仕方が無いから四人連で散歩に出かけ南の方の街道を二た村計先きまで行た 一向海に出ないから鰯の目ざしを買つて引返へした 夜食にそれを焼かして食たが中々甘かつた かるたを始めて体屈をごまかして居たが十時半頃ニオレなんかの借りて居る寝間の方ニ人の声が盛になつて来遂ニ芸者が出ると云騒ぎ 余り失敬な仕事だから下女を呼び付け攻撃を試みて見たが感じない様な調子なので益腹が立ち勘定を云ひ付け立ちのき仕度を早速始めた 此の勢ニ宿屋の主人の代りニ同家の娘が来てしきりニ断りを云ふので今夜も亦此処ニねる事と為る

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