1897(明治30) 年1月6日


 一月六日 水 (房総旅行記)
 昨夜雨が随分強く降つたが今朝ハはれた 十時過から出かけて小代と二人伊三郎と云一寸とした親方分の奴の家ニ行て其処の内のよめを手本ニしてかいた 此の女ハ一昨日浜で仕事をしてゐるのを見て手本ニする約束をして置たのだ 主人の伊三郎が居合はして茶を出さしたり又真黒を切つて上げろなどゝ云た 一時過まで仕事をした めしの時ニ少し酒をのみ過ぎた様だつたが三時半頃から仕事に出かけた いわしが上つて用事が多いので手本がだめニ為り圃に行て此間かいた夕日の画を直して内へ帰つた 今晩は腹が大きいからをそくめしを食た いろいろ話が出てグレでオレが鹿を飼つて居た時の事など話た 話つゝしきりにグレの事など思ひ出し内へ手紙を一通出し又佐野へ画の端書を出した 今日午後内へめし食ニ帰つた時ニ牛方ニ小為替で五十銭送つてやつた 全体今日の暖かさハ実ニ非常だつた まるで四月頃のはだもちさ