1901(明治34) 年8月7日


 八月七日 (箱根避暑旅行日記)
 朝の内少しく雨ふり午後止む
 三時二十分新橋発 同行ハ母上 種 文と拙者の四人也 母上今年六十五歳 種ハ二十九歳 文姓ハ小泉年十六 拙者三十六歳なり
 国府津に着し停車場前の蔦屋にて急ぎ茶漬を食ひ電気鉄道に乗る 此処の電車に乗るハ今日が始めてなり 車新らしく一寸奇麗にて乗具合悪からず 始め中等に乗りたれども人多く入り来りし故上等ニ乗り替えたり 一時間にて湯本ニ達す 時ニ七時半頃也 例の万翠楼福住の三階に泊る 此家の風呂はいつもながら清潔にして心地よし 広き浴室の方の中央に板塀様のものを突き出し湯壺を真中より二つに分けて浴室を狭ばめたるハ営業上何か訳のある事ならんが窮屈に為りたるハ遺憾なり