本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1901(明治34) 年8月18日

 八月十八日 (箱根避暑旅行日記) 晴れたり 此頃は来遊者多く武蔵屋丈にても日々三四十の客人中食を為すと聞けり 元来武蔵屋の亭主挨拶者にて心地悪からざる人物なれども使役者少なき為か不行届なるは遺憾なり 今日の昼飯などハ幾回も催促したる上一時過て箸を執る様の次第なりし 明日の昼飯は宿の石内方まで行て食ハんと思ふなり 又武蔵屋の小使は総州成田地方の者にて気の利きたる男なり 下婢は僅ニ二人 其内の一人はまめに働けども他の一人は酌婦然たる者にてなまめかしく且ツ立ち回りぐづぐづにして歯痒き事なり 朝箱根神社々務所即ち神主古川氏の家にて神社の宝物を拝観せり 十郎 五郎が復讐に用ひたりと称する古刀二振有り 宝物中の主なる者なり 函山誌一冊を購ふて帰る 夜客舍に於ける無聊の様を画く

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