1896(明治29) 年2月19日


 二月十九日 水 (京都日記)
 今朝起て第一番ニ目ニふれたのハ杉竹公から来た手紙 実ニ奴ハ浦山敷暮しをして居るわい 恩順師が来たが一寸失敬すると云て出掛け知恩院の中を独りで散歩しながらゆつくり竹公の手紙をよんだ 恩順師とおうのを手本ニ夕方迄足の画を木炭でかいた 心地よく仕事した 松原が親病気で急に山口へ帰る事と為り今夜九時の気車ニ乗ると云のでオレも何となく淋しい心持に為り色々話をして居た処ニ安藤が東京から帰つて来たと云てやつて来又間も無く中村も丹波から今日帰つたと云て来た 此のごたごたの中で敦盛ハ時間が来て立て行た 実ニ人間の離合不思議ナものだ
 今夜みぞれが少し降つて居る 杉が贈つてくれた Le Roi Apepi と云本が今夜届いた