本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1901(明治34) 年3月5日

 三月五日 火 晴 (欧洲出張日記) 午前にサンタ・トリニタ サンタ・マリヤ・ノヴエラ オニサンチの諸寺 午後にフヰエゾル行の電気鉄道でサン・ドメニコまで行た 之れはアンゼリコの居つたと云ふ寺のアンゼリコの画を見に行たのだが今お寺の修繕中で其画も手入の為によそへやつてあると云ふ事で見る事が出来なかつた 少しサン・ドメニコを散歩して又電鉄に乗つてフロランスへ引返へしてヅオモ寺の内部を見た 此寺ハ寺の建築としてハフロランス一のもので百八十六年間かゝつて出来た 円堂はブリユネレスコの作 入口の左右に騎馬武者の壁画が有る 右はカスタニヨ筆 左はウツチエロ筆 いづれも暗くしてよく見へず ミケリロのダントの肖像といふのもある 可也評判の画だ フヰエゾルといふ処はフロランス市の外で市より乾の方に当つて居る小高い丘だ オルヴヰエの樹が多く植てある サン・ドメニコは其丘の登り口の処で日本の山などで云へば馬返ヘしと云やうな場所だ 今夜は早目に十一時頃ねる

to page top