1896(明治29) 年2月9日


 二月九日 日 (京都日記)
 昨夜一時過より雨が降り出し今朝ハ一層はげしく降る 杉竹公ニ出す手紙をかく 書きつゝしきりニ巴里の事を思ひ出した 午後お栄どんの仲居の髪の風を写した 中村もやつて来て小娘を手本ニ木炭を勉強した 晩めしニ中村とお栄を引とめ平野屋からめしを取り寄せて御馳走した オレも其お蔭ニついた 食後お栄ハ明後日を期して去り中村ハ一心不乱ニ去る五日の紀行をかく 十時半頃ニ松原と中村の帰るのを送つて散歩ニ出懸け新地から先斗町を通り京極を三条通りへ出て中村ニ別れ又京極を下り四条前より真直ぐ東へ山へ帰る