本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1887(明治20) 年8月23日

 八月二十三日 火 晴 (トレポール紀行) 今朝は久松君へ端書一ツ出したり 朝食事前少シク遊歩シたり 食後カジノニ行キ久米氏等へあて端書一ツヲ認めたり 後ち波止場の橋の上ニテ乞食老人の面を写し居ル時シヤルパンチエ氏ノ友人ニ出会ヒ後ち共ニ遊歩セリ 別れて後同宿ノ若キ男ニ出会又共ニ遊歩しめるす町の手前迄行きたり 此ノ男ハ家内打ち連れ立ちて今晩七時頃ニ出発し帰ると云 巴里ノ近在ナルシヤンチイトカ云処ノ者ニテ馬車製造家の子ナる由なり 同人と別れてよりカジノニ行キタリ 時ニ四時半頃ナリ 即チ読書室ニ入リテリヽヤツドヲ少シ読みたり レールノ妻君等来らず 夜食後独リニテ少シク遊歩し後カジノニ行キレール氏ノ為メニ場所ヲ取りたれども来るか来らぬか知れぬ故念ノ為問合セニ行きたり 門口ニテ出会ヒタリ 今夜ハカジノの辺ヲ散歩するのみにてカジノの中ニハ入らずトの事也 即チ小生モ御同道仕たり レールの妻君 娘の外ニチユモン氏夫婦ニ一人のむす子及セネシヤル氏ノ妻君等なりし 余ハカジノニ立寄りて椅子ノ上ニのせ置キたる杖ヲ取リ来りたり 後ち皆様と御一緒ニカキネノ外ニ立ちて舞などを見物し夫レカラレール氏ノ門口迄行キテ帰れり 時計なけれバ時を知る不能

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