本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1887(明治20) 年8月22日

 八月二十二日 月 晴 (トレポール紀行) 今朝十時頃ニ起キ出で少シク海浜ヲ歩し帰リテ食事ヲ為したり ソれより久松氏ヲ送リテ停車場へ行きたり 同氏ハ一時十七分ノ気車ニテ巴里ヘ向ケ発られたり シヤルパンチエ氏モ来り居られたり 之レヨリ又此ノトレポールニ一人ト相成淋みしき事也 後チ海辺ヲ少シク歩しソレヨリカジノニ行昨日ノ日記ヲ記シタリ シヤルパンチエ氏モ同処ニ来りたり 後シヤルパンチエ氏ト海辺ヲ遊歩シ六時前ニホテルドフランスノ珈琲店の前ニレールノ妻君等ヲ見掛ケ暫時立寄りて話ヲ為シ後チ打ち連れて立出でたり(是ヨリ先キカジノヲ出デテシヤルパンチエ氏ト巴里珈琲店ニテ茶ヲ一杯のみたり シヤル氏ノ馳走) 夜食後同ジ旅店ニ居ル一青年ト遊歩シ九時頃ニカジノニ入りたり レールノ妻君等已ニ在リ 今夜ハ踏舞なく只音楽のみ故ニいつもより早くしまいたり レール家の門迄送りて帰りたり 僕の時計先日より大病なりし処今日誤テ板敷の上にをとしたれバ遂ニ全クくたばりたり 不自由此ノ上もなき次第也

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