1901(明治34) 年8月23日


 八月二十三日 (箱根避暑旅行日記)
 小泉氏今朝八時頃去る 雨ふること殆んど昨日の如し 頭重く気分甚だ宜しからず 一体此ノ三四日ハ食欲特ニ少し 何の故なるを知らず 午後五時頃風呂に入り幾分か頭痛も減じ心地よく為る 風呂の水汲は小使の男の受持なりしが此の男何か不平の事有りて二十日限りに暇を取りたりといふ 中々気の利たる男にて能く拙者方の用を足し呉れしが居ず為りて行届かざる武蔵やは益行届かず 不自由なる事甚し 可笑もあり又気の毒なるは小使の代ニ宿屋の主人が自身にて風呂の水を汲む事也 昨日ハ雨余り強く降り水汲ニ究したるにや此の離家にハ勿論本店にも風呂を沸かさず 旅人宿にて仮令一日たりとも風呂を立てぬといふは手廻ハしのよき証拠ニ非ず
 夜食後傘をさして散歩す