本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1915（大正4） 年6月10日

　六月十日　木　晴　午前十一時女学部会議ニ出席　序ニ花壇ヲ一覧シテ一時過帰宅ス　三時過ヨリ又櫻井ヲ相手ニ山内侯ヲ描キ夕刻ニ至ル　夜山本未亡人来リ芳翠ノ遺作二三点ヲ観タリ

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1915（大正4） 年6月11日

　六月十一日　金　雨　電話ニテ二三ノ要事ヲ済マセ午後三時頃陸軍省ニ森博士ヲ訪ネ要塞許可証ノ件ヲ依頼ス　又此件ニ付軍務局長ニモ面会セリ　四時ヨリ山侯像ヲ描ケリ　夜中井　島田ノ二氏入来　中井子ハ予テ話置タル写真機ノ見本ヲ持参ス　但材料商同伴　又今夜加藤恒忠君ヨリ電話アリ出品ノ事ヲ引受ケタリ

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1915（大正4） 年6月12日

　六月十二日　土　雨　文天祥真蹟ノ件ニ付當舎ヲ呼ブ　午前十一時頃六角同道入来　即チ溝口氏ヘノ紹介書ヲ渡ス　午後山内侯ノ肖像画ヲ描キ夕刻松方侯ノ肖像画試作ノ背景及服装ヲ修正ス　夜堺氏来リ陶器談ヨリ孝ノ修業方法等ニ及ベリ

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1915（大正4） 年6月13日

　六月十三日　日　小雨　牛呑会旅行　会スル者十三名　岩村　菊地　坂井　北　小林萬　岡田　中澤　矢崎　長尾　和田（三造）　岡野ナリ　午後一時十五分上野発ノ汽車ニ乗リ金町ニテ下車徒歩柴又川甚ニ到ル　黄昏時同処ヲ立出電車ニテ本所押上マデ来リ後チ浅草公園内ヲ回リテ別レタリ　十時半頃帰宅ス

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1915（大正4） 年6月14日

　六月十四日　月　半晴　（鎌倉）　加藤恒忠君ノ為住友家所蔵ノ油絵借用ノ件ヲ和田英作君ニ依頼シ其他ノ要件ヲモ電話ニテ済マセ午後四時四十二分新橋駅発照子同伴鎌倉ヘ赴ク　松方乙彦氏ト同乗セリ

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1915（大正4） 年6月16日

　六月十六日　水　晴　（鎌倉）　午前九時過ノ汽車ニテ出京　十一時華族会館ニ着ス　松平子爵主催ノ写真会ノ審査ヲ了ヘ中村氏及ナルヂ氏ト会食ス　雑談午後三時ニ至ル　後チ帰邸　汗ヲ洗ヒ衣服ヲ更メ六時過新橋発鎌倉ニ還ル

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1915（大正4） 年6月18日

　六月十八日　金　晴　（鎌倉）　毎日八十五六度以上ノ気温ニテ全ク暑中ノ感アリ　植木屋ヲ雇ヒ庭ノ手入ヲナサシム　午後三時頃和田君来ル　用談中菊地氏モ見ユ　二氏ト共ニ晩食ヲ取ル　本日逓信省ヨリ御大礼記念印紙審査嘱托ノ辞令ヲ受ク

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1915（大正4） 年6月19日

　六月十九日　土　晴　（鎌倉）　今朝父上様ヨリ御手紙ニテ皇后陛下ヨリ賜物アリ　御礼参内ノ御下命ヲ受ク　本日要塞司令部ヘ模写願ヲ提出ス

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1915（大正4） 年6月21日

　六時二十一日　月　曇　夜小雨　（鎌倉）　午前十時三十九分発ノ汽車ニテ鎌倉ヲ去ル　土肥博士ト同乗シ同博士ノ紹介ニ依リ朝日記者ノ本多氏ヲ知ル　新橋停車場ニテ博士ノ馳走ニナリ一時過帰邸　直チニ和田君ヲ呼ビ約束ノ切手ヲ渡シ夫レヨリ父上様ノ御命代トシテ皇后職ニ出頭シ上野梅川亭ナル技芸員会ニ出席セリ

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1915（大正4） 年6月22日

　六月二十二日　火　晴　午前十時調度寮ニ出仕シ事務官等ト御撮影場ニ到リ準備ニ関スル調査ヲ遂ゲ後チ工場ヲ見回リ一時過帰宅　午後三時頃ヨリ樹陰図ノ修正ヲナシ五時半筆ヲ擱ク

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1915（大正4） 年6月23日

　六月二十三日　水　半晴　少シク風アリ　午前中モデルニ拠リ山内夫人ノ服装ヲ修正ス　午後少シク木かげノ図ニ筆ヲ加ヘタリ　四時青山墓地ニテ執行ノ白尾國芳君遺骨埋葬式ヘ赴キ夕刻帰宅ス

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1915（大正4） 年7月1日

　七月一日　木　晴　夜半雨　午前中岡　太田喜　藤島ノ三氏来ル　午後二時鎌倉町役場ヘ電話ヲ掛ケ陸伯ト語ル　三時頃ヨリ枢密院事務所ヘ赴キ父上様御病気ノ御届ヲナシ夫レヨリ駿河台西園寺侯邸ニ到リ帰途流逸荘ニ寄ル

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1915（大正4） 年7月2日

　七月二日　金　晴　午前八時過女学部石原氏手当ヲ持参セラル　亦中川　小川ノ二氏入来　午後一時杉謙二氏見エ口絵ノ依頼ヲ受ク　三時頃ヨリ作画ニ従事ス　八時ヨリ大松閣ヘ出向キ陸奧伯ト会見　十一時頃帰宅ス　（欄外　樹陰図）

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