1900(明治33) 年6月14日


 六月十四日 (欧洲出張日記)
 今日は海上にハ波が多く立ち又波の姿も大きく為つた 左側の甲板には時々潮を打ち上げた
 午後日本の宅へ出す手紙を書いた 船の中にこんなにぼんやりして暮らして居るのだから友達や何かに随分細かな手紙をかいてやる暇が有るのだが今日位ゆれるとはく程に酔ハないまでも気分が重く本を読む事さへ六ケ敷只 ぼんやり長椅子に寝転んで海を見て居る丈だ 又今日程ニゆれない時でも一日として気分のはつきりした事はない 始終熱の有るやうな心地がしていてこれは夜安眠が出来ない故かもしれない 何しろ此の船中に居る間は病気で入院して居るのだと思つて居るより外はない 体の具合がよくない為めか気分が何となく鬱して愉快な考は丸で出ない