1900(明治33) 年6月29日
六月二十九日 (欧洲出張日記) 昨夜は蚊が居たのと夜中石炭の積み込みでがたがたやるのでゆつくり眠る事が出来なかつた 四時頃に船が動き出したやうだからポルトサイドを一と目も見ないで立つのも残念だと思ひいそいでヅボンをはき上着を引かけて甲板ニ出た そうするともうポルトサイドははるかに為つて高い塔や町の全体が殆んど平たく空に切り抜画のやうに為つて居るのを見た 此の時ニ寒暖計を見たら二十一度であつたが午後ニ為つては三十度まで昇つた 今日は向ふ風で夕方から夜へかけては随分船がゆれた ポルトサイドを出てから陸は少しも見えない