1900(明治33) 年6月9日


 六月九日 (欧洲出張日記)
 昨夜薬をのんでねてからいつものやうに汗が沢山出て少し眠る事が出来た 印度洋の旅ハもうよくよくいやニなつた
 今日はどうも気分が本当でない 十時の昼めし前ニ看護人が熱さましの薬を呉れたから呑んだ めしハ二タ口か三口丈で御免を蒙つた 一時のめしにも行かず甲板で博文館の紀行文集を読だり居眠をしたりして居た 今日ハ実にあつい日だが寒暖計ハ三十一度位のものだ ボーイニ頼で一時のめしのスープを取つて置てもらつて二時半頃ニ呑んだ 今日ハ少し熱でもあるものかつるりと居眠をすると東京の内の者の姿などが見える 篠塚氏が書附を持てオレをさがして居るところも見た
 晩には大抵よく為つたと見えて腹がへつたから一と通り食事をした