1915（大正4） 年4月1日
四月一日 木 晴 （鎌倉） 奏笙軒ニ入リテ気楽也 充分朝寝ヲナシ午後ハ按摩ヲ呼ブ 三時頃静子殿入来 頼綱モ青山師範附属小学ノ制服ニテ来ル 先般葉山ニテ皇后陛下ヨリ父上様ニ御下賜ノ御袴地ヲ父上様ヨリ清輝ニ給ハル 難有次第也
本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。
1915（大正4） 年4月3日
四月三日 土 雨 神武天皇祭 （鎌倉） 学校卒業生朝鮮人高義東帰国ノ暇乞トシテ来訪 午食ノ卓ヲ共ニシ三時過迄語ル 後チ按摩ヲ呼ビ夜ハ読書ス
1915（大正4） 年4月4日
四月四日 日 午前曇 午後晴 （鎌倉） 少シク読書シ亦静物画ノ試作ヲナス （欄外 黄水仙図）
1915（大正4） 年4月5日
四月五日 月 晴 夜小雨 （鎌倉） 午前十時四十五分発出京 東京停車場食堂ニテ午食ヲ取リ午後一時半頃調度寮ニ到リ御写真工場ニ於テ川 木二氏ト会合 諸種ノ相談ヲ為シ四時寮頭及事務官ニ経過ヲ報告シテ五時前退出ス 日本倶楽部ニテ川氏ト晩食 七時半東京駅ヲ発ス 往復共小幡文三郎氏ト同乗ス 同氏トハ明治十八九年頃巴里ニテ相知レリ 其他ダヌタン夫人 陸奧伯及村田翁ニ汽車中ニテ又東京駅食堂ニテ津輕氏ニ遇フ
1915（大正4） 年4月6日
四月六日 火 午前十時頃迄薄日 後チ晴レ 午後曇 （鎌倉） 午前十時頃金井延君来訪 正午マデ和田ノ事ドモ語リ合フ 後チ俥ニテ大倉ナル小幡氏邸ニ到リ庭ノ設計ニ付意見ヲ述 一時半帰廬 午食ヲ取リ直ニ同人会ヘ赴ク 会議終リテ陸奧 荒川ノ二氏ト八幡宮境内ヲ一巡セリ
1915（大正4） 年4月7日
四月七日 水 雨 又少シク気温下ル （鎌倉） 本日ハ学校始業日ナリシガ電話ヲ掛ケ櫻井ヲ以テ断ラシメタリ 行ク処モナク来ル人モナク閑静也 明後日ヨリ一時引上ゲノ予定ナレバ終日ボツボツ要事ヲ書キ留メ書籍及書類ヲ整理ス 今夜町井氏ヨリ手紙届ク 溜池地所鑑定料請求也
1915（大正4） 年4月9日
四月九日 金 晴 （鎌倉） 午前八時五十分鎌倉ヲ発シ十一時半頃上野ノ学校ニ着ス 上野ノ花ハ見頃也 清水下ニテ芳陵君ニ大仏ノ辺ニテ島田ニ遇フ 精養軒ニテ午食ヲ取リテ調度寮ヨリ三越ヘ回ハル 先ヅ外套ノ仮縫ヲ試ミ後チ三越児童博審査場ニ入ル 晩食後八時同所ヲ辞シ小川町国民美術協会評議会ニ出席シ十時半ニ到ル
1915（大正4） 年4月10日
四月十日 土 晴 日比谷美術館佐藤ヲ引見シ面会 開催ノ希望ヲ聴取ス 午後三時頃非水子来ル 同氏ノ作品集ノ為ニ肖像ヲ画キ与フ 夜島田 太田ノ二子ト十時頃迄談話
1915（大正4） 年4月11日
四月十一日 日 雨 午後中條君来訪 会場ニ関シ茶話会ヨリ奇ナル条件ヲ持込ミタル趣也 後雨中ノ庭前ヲ描ケリ
1915（大正4） 年4月12日
四月十二日 月 雨 上野美術学校入学式ニ出席シ式後例ニ依リ新入生ヲ集メテ一二ノ注意ヲ与フ 午後岡野子及ビ久保田米斎君来ル 夜和田三造 其友人醤油屋某同道来訪 又岡幹事今朝佐渡ヨリ帰リタル由ニテ来レリ
1915（大正4） 年4月13日
四月十三日 火 晴 午前十時頃昭憲皇太后御霊代遷御ノ御行列ヲ拝ス 午後一時皇霊殿参拝 後チ一旦帰宅服ヲ改メ御写真場ヘ赴ク 時ニ二時也 宮内省高等官数名ノ撮影ヲ行フ 技術上ノ試験ヲナセシナリ 本日午前中女学部卒業生三名来レリ
1915（大正4） 年4月14日
四月十四日 水 午後晴 上野精養軒ニテ催サレタル国民美術協会午餐会ニ出席シ後会員諸氏ト展覧会場ヲ一覧シタリ 小川氏方ヘ回ル 同氏ノ案内ニテ帝国座ノ芝居ヲ見物セリ
1915（大正4） 年4月15日
四月十五日 木 曇 夜八時頃雨 午前十時半矢崎 佐藤来ル 十一時女学部会議ニ出席 十二時過ニ至ル 午後一時ヨリ御写真場ヘ出仕シ女官撮影ヲ監視ス 終リテ仕事場ニ入リ六時退出 日本倶楽部ニ於テ小川君ト晩食ヲ取リ写真科ノ事ドモ語ル 八時頃長田君ヲ采女町山口旅館ニ訪ヌ 帰宅後當舎ヲ引見ス
1915（大正4） 年4月16日
四月十六日 金 曇 中井 佐藤 宮島ノ三子玄関迄ニテ去ル 佐藤ハ日比谷館後援会趣意書原稿ヲ持参ス 午食後渡辺氏来ル 二時間許雑談 又森岡子親子三人連ニテ来ル 是丈ニテ夜ニ入ル 晩食終リテ中澤 矢崎及橋口兄弟ノ四人ニ応接シ夜半過ニ至レリ
1915（大正4） 年4月17日
四月十七日 土 曇 本日ハ跡見女史ノ肖像画ニ着手ノ予定ナリシガ電話ニテ差支ノ旨通知アリタリ 午前十一時頃赤阪見附下ニテ徳川三百年祭大名行列ナルモノヲ見タリ 四時頃ヨリ自画像ヲ作ル 夜照子 君子同伴流逸荘ヘ赴キ雨ニ逢フテ帰ル
1915（大正4） 年4月18日
四月十八日 日 雨 午後霽 午後佐藤久二ノ為日比谷美術館後援会趣意書原稿修正ヲナス 後チ松方侯肖像画ノ改作ニ着手セリ 四時過女優壽美代来ル 有楽座出演ニ付見物勧誘ノ意ナリト察セラル 晩食後照子 君子 知足ト四人ニテ赤阪演伎座ニ天勝ノ手品ヲ観タリ
1915（大正4） 年4月19日
四月十九日 月 雨 午前十一時ヨリ御写真場ヘ出頭 第三回ノ試験ニ立合ヒ後チ工場ニ於テ前二回ノ成績ヲ視察シ午後五時頃退出ス 夜島田 岡 佐藤ノ三子来ル 島田ハ求妻 佐藤ハ後援展覧会 岡ハ研究所勘定等ノ用向也
1915（大正4） 年4月20日
四月二十日 火 晴 午食時萩原一羊君女優濱子同道来訪 両人去リテ後一時間許自画像ノ修正ヲ試ミ四時過ヨリ日仏協会ノ理事会ニ出席シ五時半頃ヨリ有楽座ヘ赴ク 照子先着 岡野子後レテ来ル 本日ハ壽美代女出演ニ付同女ノ希望ニテ紫会連ノ見物ニ加ハリ岡野子ヲ誘ヒタルナリ 萩原君モ来合セ壽美代ノ夫田村氏及房子 浪子等ヲ紹介セリ
1915（大正4） 年4月21日
四月二十一日 水 曇 古市博士トノ約束ニ依リ同博士三男曻君ヲ引見シ午後一時ヨリ一時間許語ル 後岡野子 佐藤久二来ル 四時頃ヨリ松侯ノ肖像画ノ下図ヲ画ケリ 晩食後ハ画室内ノ書籍及書類ノ整理ニテ十一時ニ至ル 照子ハ豐川稲荷ニ参詣セリ
1915（大正4） 年4月22日
四月二十二日 木 半晴 午後一時頃歴史写真発行者秋好氏入来 会長ニ推薦シタシトノ内談アリタレド辞セリ 二時頃新海 永地ノ二氏国民美術ヲ代表シテ宮内省ヘ出頭ノ為打合セノ要アリテ来訪 夜中井子来リ十一時過マデ閑談セリ