本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1895(明治28) 年1月28日

 一月二十八日 (従軍日記) 朝起出て見れバ雪ハチラチラ夜の内積たるものと見へて中庭ニつなぎたる馬の背ナド白く為居たり 八時頃ニ立つ 町はづれの河原を行時ナドハ殆んど向風ニテ寒し 道ハ小坂ナレド日本と違ヒ総テ大形故広々として風透よし 併シ此ノ位風が有るお蔭で汗の出方が少なく仕合也 十時頃ニ数発ノ砲声聞ユ 人夫共迄此の音ヲ聞くと目がさめるナ足が独りでニ進むナなど云て行く 牙柊庄ニテ昼飯ヲ食ヒ二時半頃ニ橋頭集と云村ニ着ス 今日の宿ハ昨夜ニ引カヘ大層立派也 今夜ハ床の上ニねる事が出来 此の村ハ昨日占領したるよしニテ村の者共逃げ出たる者多しと見へ我々の宿たる内ニモ家具衣類等も引散し有りたり 敵は此処より二里先ニ居るとか 威海衛ハ此処より直径僅三里也と云 今日歩きたる里数ハ凡ソ二万三千歩也 之レトロンコアより貰たるポドメートルの示ス所也と知る可し

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