1903（明治36） 年7月26日
七月二十六日 日 昨夜二時頃橋口家ヨリ電話ニテ病勢一変報有リ 大ニ驚キ直ニ行ク 幸ニシテ一時ノ変動タルニ過ギズ 朝七時頃高木氏ノ診察有リ 十時半頃一ト先ヅ帰宅 十二時頃マデ植木鉢ノ世話ヲナシ午後少シク眠リ二時頃ヨリ七時頃マデ橋口家居リ夜モ九ヨリ十一時マデ同断
本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。
1903（明治36） 年7月27日
七月二十七日 月 晴 朝橋口家ニテ植木屋 火消等ノ下知ヲ為シ又障子張等ノコトヲモ指図セリ 午後一時ヨリ五時過マデ文部省会議 帰途橋口家ニ立寄ル 荒川氏在リ 夜食後照ト橋口家ニ行ク 後麹町ヨリ赤阪ヘ回リ帰ル
1903（明治36） 年7月28日
七月二十八日 火 晴 午前九時半頃小林君来ル 十時半頃去ル 十一時頃久米来ル 信州旅行談 学校規則改正案相談其他身ノ上ニ関スル雑談等ニテ四時頃マデ語ル 夜食後橋口家ヘ行く 病床ノ横手ニテ三味線ノ最中ナリシ 樺愛来合ハセ暫ク共ニ語ル 後打連テ麹町ヲ散歩セリ
1903（明治36） 年7月29日
七月二十九日 水 晴 本日樺山伯着京 夜橋口家ニ来ラル 今夜高木氏モ来診 容体至テ悪シ 樺伯モ八時頃ヨリ十一時半頃マデ語ラル 町田氏夫婦泊ラルヽニヨリ拙者ハ十二時過帰宅 今夜鹿児島平岡氏祖母様御病気ノ報有リ
1903（明治36） 年7月30日
七月三十日 木 晴 夜十一時頃ヨリ雨 本朝十一時頃ヨリ三時過マデ橋口家ニ居リ夜食後亦橋口家ニ行ク 容体作日ニ比シ少シク快キ方ナリ 十二時頃帰宅 今朝平岡氏祖母様御危篤ノ報ニ接シ午後八時頃更ニ御逝去ノ報知有リタリ
1903（明治36） 年7月31日
七月三十一日 金 朝雨後晴 鹿児島ヘ電報ヲ出シ又父上 姉上ニ代リ花料ヲ贈ル 十時半和田英来リコラン先生ヨリ贈与ノ先生ノ写真ヲ呉レタリ 三時頃マデ語ル 午後清秀モ来リ暫時画室ニテ語ル 夜九時頃ヨリ橋口家訪問 樺山愛モ来ル 町田氏モ来リ 野村医師ニ来診ヲ乞ヒタリ 安心ノ為メ野村氏ニ泊ツテ貰フコトニナリタリ 樺君ト共ニ十二時頃去ル
1903（明治36） 年8月1日
八月一日 土 晴 十時頃前久米 合田 小林ノ三氏殆ンド同時ニ来ル 小林ハ本日大阪ヘ出発スルヨシナリ 久米ト共ニ早稲田伯ヲ訪フ 昼飯ノ御馳走ニナリ二時頃マデ語ル 帰途橋口家ニ立チ寄ル 今日ハ少シク宜シキトノコトナリ 夜溜池ニテ牛呑会 十二時頃帰宅ス
1903（明治36） 年8月2日
八月二日 日 雨 久保田米斎君十一時頃ニ来リ午後二時頃マデ語ル 四時頃ヨリ橋口家ニ行ク 樺山大将ニ出会ス 共ニ橋口家ニ於テ夜食ノ馳走ニナル 医師野村氏モ来リ診察結果相変ラズトノコトナリ 町田氏モ来リ 又本日宇都宮ヨリ千田氏ノ妻君出京セラレタリ 十二時帰宅
1903（明治36） 年8月3日
八月三日 月 曇 終日疲レノ気分ニテ和田君ヨリ貰ヒタルクローヂーヌナル小説ヲ読ンデ暮ラス 夕飯後大八木君来訪 橋口氏ノ容体電話ニテ問合セタル処宜シキ方ナリトノ返事アリタリ 今晩九時頃父上御帰京ノ趣電話ニテ承知セリ
1903（明治36） 年8月4日
八月四日 火 晴 天気ニナリ暑加ハル 夕飯時笄町若殿来訪 留メテ共ニ食事 後照ト笄町ヘ行キ十一時頃マデ居ル
1903（明治36） 年8月5日
八月五日 水 晴 中々暑シ 無論九十度以上ナリ 午後久保田君嵐山ト待乳山ノ二図ヲ持チ来リ呉ラル 彼様ニ早ク作リ呉レラレタルコト実ニ仕合ナリ 夕刻右ニ図ヲ橋口家ニ持参ス 文蔵様御喜ニテ早速経師屋ヲ呼ビタリ 三緑亭ニテ和田父子ヨリノ馳走 十時頃再橋口家ニ行キ又経師屋ヲ呼ビ額ヲ造ルコトヲ命ジタリ
1903（明治36） 年8月6日
八月六日 木 晴 今日ノ暑サハ格別ナリ 十一時頃ヨリ九十度ニ達ス 戸外百二十四 終日外出モ不叶 汗ヲ拭フコト衣ヲ改ムルコト寒暖計ヲ見ルコト等ニテ日ヲ暮シタリ
1903（明治36） 年8月7日
八月七日 金 半晴 昨日ニ比シ少シク凌ギヨキ方ナリ 表座敷ニテ九十度位ガ最高ナリ 夜十一時頃ニテ八十二度位ナリ 終日汗拭ヒ被物被替等主ナル仕事ナリシハ昨日ノ如シ 併シ昨日ニ比シ汗ニナリタル衣ヲ被替ル度数稍減ジタリ 夜食後合田来 後一寸橋口家ヘ行キ下男下女等ヘ祝儀ヲ与フ 十時半頃新寝室ヲ蔵ニ移サントセシニ床板落込ミ遂ニ不叶
1903（明治36） 年8月8日
八月八日 土 本日気温最高度八十六ナリ 朝ヨリ午後四時頃マデ画室ノ掃除等ヲナス 夕刻マデ松方氏依頼ノ裸体画ノ修繕ヲ試ム 橋口家ヨリ電話ニテ又容体宜シカラザル旨通知アリ 食後見舞ス 危篤ト云フ程ニモ非ズ 十一時過帰宅
1903（明治36） 年8月9日
八月九日 日 晴 今日ハ九十二度ガ止リナリ 午前赤松麟作来リ 午後合田来ル 合田ハ明日ヨリ一週間程房州ヘ行クトノコト 今日モ松方氏ノ額ヲ繕ヒ又春ノ図ニ桜樹ヲ加ヘタリ 夜食後白尾君来ル 橋口家ニ行キ十一時過帰宅
1903（明治36） 年8月10日
八月十日 月 晴 本日ハ電話ニテ容体ヲ聞キタルニ別ニ変リタル事ナシトノ事故見舞セズ 然ルニ突然容体悪シキ旨ノ電話ニ接シ驚キ直チニ出向ク 十一時頃文蔵様終ニ御逝去 拙者着シタル時ハ已ニ事切レ居タリ 程無ク父上及樺伯等来集 徹夜
1903（明治36） 年8月11日
八月十一日 火 晴 午後三時頃一ト先帰宅 昼寝ヲナシ夜食後又橋口家ニ行ク
1903（明治36） 年8月12日
八月十二日 水 晴 葬儀ノ準備ニテ日ヲ暮ラス
1903（明治36） 年8月13日
八月十三日 木 晴 昨日ニ同ジ 今夜移霊式執行
1903（明治36） 年8月14日
八月十四日 金 晴 午前九時半ヨリ出棺祭執行 七時出棺 青山墓地ニ埋葬 夜親戚其他ノ人皆去リ岩本氏 母殿ノミ残ル 其外ニ母上及町田氏夫婦丈泊ル