1920（大正9） 年8月20日
八月二十日 金 雨 夜飯野父子入来
本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。
1920（大正9） 年8月22日
八月二十二日 日 朝雨 後晴 午後グライヨルノ花ヲ描ク 未成 八條子爵ヘハンドスケツチ一枚ヲ贈ル 大正五年八月ノ作ニテ遠ク伊豆ノ大島ヲ望ム図ナリ 黒田信子殿 同勝江殿連名ニテ書状到来 乾ハ入院 屋敷ハ売却ノ事ニ決シタル趣記サル
1920（大正9） 年8月23日
八月二十三日 月 晴 調度ニ至リ手入ヲ済マセタル御写真ヲ提出シ寮頭ノ賛成ヲ得テ御写真部ヘ渡シ修整上ノ注意ヲ与フ 亦朝鮮紙ヲ以テ台紙ノ見本ヲ造ル事モ決定セリ 四時頃ヨリ又グライヨルヲ描ケリ 夜大隅夫婦来訪 十一時半去ル
1920（大正9） 年8月24日
八月二十四日 火 午前曇 後晴 午後渡辺氏来診 験尿ノ結果再ビ賢〔ママ〕臓ノ故障現ハレタリト 又グライヨルノ写生ヲ試ム 未ダ一部意ニ適セザル所アリ 夜中井氏箜篌ノ写真ヲ持参ス 始メテルリエフ写真ノ説明ヲ聴ケリ 暇ニ美術之日本ノ八月号ヲ読ム 今暁夢ノ如ク山ノ幸ト海ノ幸トノ構図ヲ得又去ル十二三日頃雲ト岩ノ図案ヲ夢ミタリ
1920（大正9） 年8月25日
八月二十五日 水 晴 後小雨 花ノ写生
1920（大正9） 年8月26日
八月二十六日 木 曇 先発 君子 夏子 光治 志ん あさ 女中ハ二人共始メノ鎌倉行ナリ 九時半新橋発ノ汽車ニ乗ル 斧山ハ停車場マデ来レリ
1920（大正9） 年8月27日
八月二十七日 金 曇 （鎌倉） 午前白尾齊来着 訪客 太田資英 橋口三郎 ヨツチヤン
1920（大正9） 年8月30日
八月三十日 月 晴 （鎌倉） 午後白尾帰京ス 夜太田氏ヲ訪ヌ 夫婦共出京中也
1920（大正9） 年9月1日
九月一日 水 晴 （鎌倉） 十二時二十分発照子同道出京 帝国美術院会議ハ文相官邸ニ催サル 自二時半至九時半 十時四十五分新橋発十二時鎌倉着 （欄外 審査員銓衡）
1920（大正9） 年9月3日
九月三日 金 午前曇 後雨 （鎌倉） 訪客 午後小林萬吾君（審査員内命ニ付） 千代ノ妹ハ渡米ノ途次ナリ
1920（大正9） 年9月4日
九月四日 土 時化 （鎌倉） 午後白瀧幾之助君来訪 用向ハ昨日ノ小林君ニ同ジ
1920（大正9） 年9月5日
九月五日 日 晴 （鎌倉） 京都武田五一氏宛返答ノ電文ヲ斧山ニ托ス 小川一眞氏ノ招電ニ接シ断リノ返電ヲ送レリ
1920（大正9） 年9月8日
九月八日 水 曇 （鎌倉） 午後送電二通 杉田義雄君ヘ渡仏ノ通知ニ対スル祝詞 小林萬吾君ヘ書物及ビ蚊ニ刺サレタル時ノ薬品寄送ノ謝辞
1920（大正9） 年9月9日
九月九日 木 曇 （鎌倉） 午後金沢見物ヲ決行ス
1920（大正9） 年9月10日
九月十日 金 雨 十二時五十七分鎌倉発（照子同伴）薄君ノ招ニ応ジ午後五時半帝劇ニ到リ「薔薇の荅」ヲ見物シ十時半ハネテ帰ル 今夜ハ東京ニ一泊ス 永地君ノ送別会錦水ニ催サレタレドモ欠席
1920（大正9） 年9月11日
九月十一日 土 雨 夕刻霽 （鎌倉） 夜九時三十五分新橋発ニテ鎌倉ヘ戻ル 車中ニテ望月圭介君ニ遇ヘリ
1920（大正9） 年9月12日
九月十二日 日 曇 （鎌倉） 櫻井知足 光潤社展覧会披露ノ為ニ来リタレバ女子共ヲ同人ニ附ケテ却ヘス 此日白瀧幾之助君ヨリ奈良産ノ梨一箱並ニ磯野吉雄君ヨリ燻製ノ鮭二尾到来ス
1920（大正9） 年9月13日
九月十三日 月 晴 （鎌倉） 訪客 和田英作君京大工学部石膏注文ノ件ニ付 藤橋愼一郎氏画会ニ付 先頃ヨリ少ナカラズ気ニカヽリタル石膏注文ノ事ヲ和田君ニ頼ミ安心セリ 午前中斧山来着 午後光治ト共ニ江ノ島見物ニ遣リ夜佐介荘ヘ送ル 当分同第ニ宿泊セシムル筈ナリ
1920（大正9） 年9月14日
九月十四日 火 曇 （鎌倉） 今暁ヨリ下痢数回 又感冒ニヤ咳クコト甚シ 因テ午後霊山氏ノ診察ヲ受ケタリ 話ヲ以テ新納ヘ左ノ件ヲ依頼ス 松方邸ヘ名刺ヲ持参シ弔詞ヲ述ブル事 調度寮ノ伊東氏ヘ病気平癒次第出頭スベキ旨返事スル事 三浦博士ヘ肖像画着手ノ期日ヲ病気ノ為少シク延バス事
1920（大正9） 年9月15日
九月十五日 水 雨 （鎌倉） 秋雨ニテ寂シク最モ読書ニ適シタル日ナリシガ東京ノ用事ヲ控ヘタレバ落着カズ 只四五ノ新聞ヲ読ミタルノミ 但シ病気ハ幾ンド全快セリ 明朝出京ノ事ニ決シテ寝ル