1920（大正9） 年7月26日
七月二十六日 月 晴 六時頃中村順平君明日出発渡仏ノ由ニテ暇乞トシテ来ル 中村次郎君ト溝口伯ヘ名刺ヲ以テ紹介ス
本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。
1920（大正9） 年7月27日
七月二十七日 火 晴 訪客 夕刻フオンテーヌ氏 夜太田喜二郎君（土産トシテ反物及ビ新着ノ絵之具持参）又留守中ニ佐成氏見エタル由
1920（大正9） 年7月30日
七月三十日 金 半晴 驟雨 所労ニ付不参 氏神ノ社殿ニ於テ遥拝ス 午後画学家庭教師俸酬ノ件ニ付小笠原伯ヲ訪問シ同所ニテ出遇ヒタル蒔田子ノ自動車ニ陪乗日本倶楽部マデ送ラレ加藤恒忠君ニ会ヒ同道シテ中通ノ支那雑貨商守尾方ニ到リ予テ山凵子ヨリ伝聞セル新着ノ端溪数面ヲ覧加藤君ノ鑑定ニテ其内ノ呉大徴ノ銘アルモノヲ選ビ七時頃帰宅ス
1920（大正9） 年7月31日
七月三十一日 土 半晴 午前十一時×零時半御写真部ニ於テ皇后陛下ト皇太子殿下御同列ノ御写真ノ原本ヲ作ル 午後三時御祭執行 余暇森岡ト語ル 留守中中澤 矢崎同道来訪 矢崎ハ印度土産トシテ更紗ヲ呉レタリ 端溪長方硯一面購入代金三十五円 （備忘録 御写真御用外鎌倉旅行前ニ整理ヲ要スル件 三浦君肖像画製作延期八月七日 作品頒贈 青木子ヘ（三日）前田子ヘ（九日）酒井子ヘ（十日）八條子ヘ（二十二日）牧野子ヘ（十一日）小田川氏ヘ（十一日）牌銘草稿八月七日 後援会帳簿 霞関会合日取及ビゴブラン見本 サロン出品ニ関スル児島氏書簡） （欄外 母上様年忌）
1920（大正9） 年8月1日
八月一日 日 晴 訪客 小林萬吾 堀井政吉 岡正三 吉井信一 外ニ味酒清煕（暑中見舞トシテ玄関迄）梶山惣五郎 佐藤功一（以上夜） 読書 アタマン・セミヨノフ 極楽荘厳
1920（大正9） 年8月3日
八月三日 火 晴 午前十時過青木子爵来訪 約束ニ依リ紀念トシテ八号ノ雪景ヲ贈ル 午後少シク読書ス 又飯野吉三郎氏子息ヲ連レテ入来 長良川ノ鮎二尾ヲ贈ラル 夜栗山清太郎氏来リテ朝鮮及ビ支那ノ見聞談ヲナセリ
1920（大正9） 年8月4日
八月四日 水 雨 森口多里氏入来 四時過ヨリ六時過迄語ル
1920（大正9） 年8月5日
八月五日 木 半晴 夜雷雨 暫時丸山氏ト美術談ヲナシ三時前帰宅ス 夜仲君来リ国民美術協会後援会ノ帳簿ヲ渡シ之レニ関スル事務ヲ依嘱ス
1920（大正9） 年8月6日
八月六日 金 晴 午前ヨリ子爵連ニ寄贈スベキ作品ト額縁ノ配合ニ付苦心シ確定ノ後チ裏板ヲ附ケシメンガ為メニ磯谷ヘ渡ス 又午後ハ斧山ヲシテ三浦君ノ肖像画ニ用ユル画布ヲ切リ枠ニ張ラシム 四時二十分位ヨリ二人曳ニテ中野ヘ赴キ先ヅ新帰朝ノ廣瀬哲士氏ヲ訪ネ仏国アマンジヤン氏ノ日本現代ノ美術品サロン陳列ノ希望等ヲ聴取ス
1920（大正9） 年8月7日
八月七日 土 雨 午後二時半ヨリ自動車ニテ廻ハル 駿河台三浦邸 本月中ニ着手スベキ肖像画ノ製作ヲ来月十日後ニ延バス 但シ一ト通リ位置ヲ取極メタリ 小石川丸山町ナル杉山令吉氏ヲ訪ネ牌銘ノ原稿ヲ渡シ校閲ヲ乞ヒ置ク 而メ大ニ歓迎ヲ受ケタリ
1920（大正9） 年8月8日
八月八日 日 雨 本日鎌倉ヘ赴ク可キ予定ナリシガ昨日ヨリ君子少シク不快ニテ渡辺氏ノ診察ヲ受ケタル結果出発ヲ見合ハスコトヽセリ 今ノ容子ニテハ感冒丈カ肋膜カ判明セズ 少シク経過ヲ見ルノ外ナシト云ヘバ暫ク在京ノ止ムナキニ至レリ 夜野氏父子又入来 十一歳童文武愈入門ス
1920（大正9） 年8月9日
八月九日 月 雨 使ヲ以テ前田利定子ヘ雪景一面ヲ送ル 此図ハ降雪中ニテ前景ニ猿辷リト青桐ノ幹ヲ描キタルモノ也 夜磯谷一平ヲ呼ビ更ニ三浦氏ノ額縁及ビ枠ヲ注文シ序ニ今年前半期分ノ払ヲナセリ
1920（大正9） 年8月10日
八月十日 火 午前晴 午後雷雨 夕刻牛込ノ酒井忠亮子ヘ薔薇花ノ油絵ヲ贈ル 是レハ鹿児島ノ白三島ノ小花瓶ニ挿シタル図ナリ
1920（大正9） 年8月11日
八月十一日 水 晴 午前中ニ根岸ノ牧野子ヘ斧山ニ油絵ヲ持タセ遣ス 其画ハ今春描キタル雪景三枚ノ一ニテ小松原ノ残雪ナリ 又午後小田川博士ヘ小舟図一面ヲ贈レリ 聊娯会展覧会ノ会場期日規定等ニ関シ南部伯爵家ノ用人入来 松橋宗二氏 夜仲君ヨリ国民ノ利子ヲ受ケ同君ヘノ支払ヲナス
1920（大正9） 年8月14日
八月十四日 土 午前雨 午後晴 午後少シク読書 又夕刻一時間許中村君作ノ未成肖像画ニ補筆ス
1920（大正9） 年8月15日
八月十五日 日 晴 渡辺氏午後来診 岡常次見ユ 飯野君父子入来 後又少シク補筆ニ従事ス 夜床脇ノ袋戸棚ノ片附ヲナス 今晩在巴里ノ辻永 三宅克己 加藤靜兒 高木背水ノ四氏ヨリ封書又ハ絵葉書到達ス 高木氏ノ外ハ何レモ Hôtel des Grand Hons Üier ニ止宿ノ由ナリ 高木氏ノ住所ハ不明
1920（大正9） 年8月16日
八月十六日 月 晴 四時過ヨリ又柴明君ノ為メニ画室ニ入ル 本日ハ主ニ背景及衣服ニ筆ヲ加フ 夜日本帝国美術略史ヲ取リ出シ箜篌ノ調ヲナシ序ニ足利ノ終迄通覧ス 箜篌ノ事ハ在巴里中村次郎君ノ依頼ナリ
1920（大正9） 年8月17日
八月十七日 火 晴 午後中井氏ヲ招キ楓山御休息所ニテノ御写真ノ引伸シヲ拝借ス 此休暇中ニ御手入ヲナサンガ為ナリ 又同氏ニ箜篌図ノ複写ヲ頼ム 今日モ亦四時前ヨリ補筆ニカヽル 夜君子ノ病室ニ蓄音機ノ遊アリ 病気次第ニ宜シ 亀甲模様ノ手文庫ヲ整理シ内容ヲ万覚帳ニ記入ス 夕刻三宅君ノ Venezia ヨリノ葉書ヲ受取ル 結局一昨日ノ分ト前後シタルモノニテ文中ノデルネリー画伯云云義稍々分明セリ 蓋シ是レヨリ先ニ委シク申送ラレタル趣ナレドモ其手紙ハ未ダ入手セズ
1920（大正9） 年8月18日
八月十八日 水 午前晴 後雨 四時頃ヨリ画室ニ入ル
1920（大正9） 年8月19日
八月十九日 木 雨 千田嘉平君午後七時半東京駅発ハルピンヘ赴任ノコトヽナリタレバ予テ約束セル作品（樹上ノ雪ノ図）一点斧山ヲ以テ代々幡ノ邸マデ届ケ又同君ヲ停車場ニ見送レリ