本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1920（大正9） 年1月20日

　一月二十日　火　晴　午前十一時登校　今年最初ノ授業ナリ　而シテ学期末ノ競技ト郊外写生ノ日取　卒業製作ノ搬入ト採点　入学試験委員　岡四郎ノ件等ニ関シ協議ヲ遂ゲ午後二時半過退出セリ　梶山氏　小川氏来訪　子爵一柳末徳氏ノ辞職去十七日御允裁アラセラレタル趣夕刊ニ見ユ　右ニ付曾我君ヨリ電話アリ　後チ渡邊子爵トモ語ル

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1920（大正9） 年1月21日

　一月二十一日　水　晴　川崎造船所東京出張所員ト松方氏依頼ノ美術館設計図複写ノ件ニ付語ル　辻（永）大隅ノ二氏八時頃入来　十一時迄語レリ

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1920（大正9） 年1月22日

　一月二十二日　木　晴　霞関ニ於テハ前回ト同ジク先ヅ大食堂ノ壁面　天井等ノ配色ヲ検分シ後チ広間　客室等ノ欄間及天井ノ金色ノ程度ニ付相談セリ　夜刀剣ノ追加目録ヲ作ル　但シ短刀ノ分ハ未完

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1920（大正9） 年1月23日

　一月二十三日　金　晴　自動車ニテ美術学校ニ到リ校長ニ面会シ中村君ノ病状ヲ述ベ優遇退職ノコトヲ謀リ充分ナル解決ヲ得タリ　澄宮殿下御童形服並ニ御切袴ノ御写真ニ充分修整ヲ加ヘ仮焼ヲ調度ニ提出ス　後チ中條君ヲ事務所ニ訪ネ増島氏ノ意志ヲ伝ヘ文庫設計図二面ヲ受ケ取リテ回ル

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1920（大正9） 年1月27日

　一月二十七日　火　晴　総理ノ秘書山田氏ハ牧野氏ノ紹介ニテ本日始メテ知レリ　帰宅後森岡氏ト織物図案ノ話ヲナス　留守中小倉右一郎君渡欧ノ暇乞ニ来ル

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1920（大正9） 年1月29日

　一月二十九日　木　雪　雨　午後二時霞関ニ到リ三時半ヨリ渡邊　大澤　鈴木ノ三氏ト宮内省ノ自動車ニテ寺尾及ビ小澤ノ家具店ニ就キ籐椅子ノ調査ヲナシ五時頃帰宅ス　又渡邊式部官ノ為ニ電話ニテ高村翁ヘ油土ヲ頼ム

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1920（大正9） 年2月1日

　二月一日　日　曇　星製薬会社宛約束ノ夏ノ庭ノ図ヲ送ル　御遺品及ビ書類ノ調査ヲ始メ黒エナメル箱ヲ整理ス　照子水天宮ヘ参詣ス　夜仲氏ヨリ中村ノ容態ニ関シ度々電話アリ　渡辺氏ハ近所ノ宮島方ヘ往診中ト聞キ知足ヲ遣ハシタレドモ君悶ヘテ不叶　尤モ最後ニ病人落着キタリトノ事ニテ安堵セリ

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1920（大正9） 年2月2日

　二月二日　月　雨　夜半霽　画室内ノ書机ノ抽匣ヲ整理シ分類セル文書ヲ万覚帳ニ記入ス　（欄外　文相官舎帝国美術院会議　書類調査第二日）

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1920（大正9） 年2月4日

　二月四日　水　曇　父上様御履歴書ノ整理ト鹿児島行ニ要スル書類取纏メノ目的ヲ以テ去ル一日ニ着手セル調査ノ第三回トシテ画室内乾部ノ五分ノ二許ヲ片附ケタリ　光治ニ節分ノ豆撒ヲナサシム

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1920（大正9） 年2月5日

　二月五日　木　雨　午時過小川君入来　美術学校写真科ト同科ノ教員其他ノ件ニ就キ一時半頃マデ語ル　漸ク二時半霞ケ関ニ到ル　本日ハ式部長官及ビ西園寺式部官来観　後チ三時過ヨリ各室ニ亘リ評議ス　壁紙天井ノ金色　大食堂ノアーチ　階段ノ窓硝子　大名行列人形陳列棚　油絵額ノ配置等ナリ　晩食後ハウス大佐ヲ読ミ了リテ先ヅ万覚ニ少シク朱書ヲ加ヘ後チ昨日取リ乱シタル雑誌写真ノ類ヲザツト始末セリ

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1920（大正9） 年2月6日

　二月六日　金　薄日　登校　授業　待合セ居タル岡四郎氏ヘ新任務ノ主要条件ヲ告グ　亦諸氏トモ午後二時頃迄語レリ　帰邸後小室氏　星啓二氏　渡邊氏ノ順ニ面会シ間モナク夜ニ入ル　八時頃ヨリ流逸荘ナル国民美術協会ノ評議会ニ出席ス　展覧会ノ規則入会者ノ銓衡其他二三件ヲ決議シ十一時半ニ至ル　中村不折君ヨリ開通褒斜道碑ノ有無ニ付通知アリ

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1920（大正9） 年2月7日

　二月七日　土　薄日　作品二点　雪景摂津二宮伊藤保平氏宛　海辺図須磨羽室蒼治氏宛　何レモ今夜磯谷ヘ渡ス　明日客車便ニテ発送ノ筈ナリ　例ノ如ク知足ニ鵜木氏ヘ手紙ヲ代筆セシム　午後仲氏玄関迄来リ一寸中勝君ノ事ヲ語リテ去ル　取込中ニ念ノ入タル次第ナリ

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1920（大正9） 年2月8日

　二月八日　日　雪　終日雪フル　四五寸許積リタルガ如シ　梶山氏ヲ招キ例ノ九星子ニ関シ聴ク所アリ　晩食後画室内ノ支那鞄ヲ取出シ調査ニ掛ラントシテ渡辺氏来訪ニ接ス　同氏ヨリ中勝君ノ経過ニ付委シク説明的報告アリ　其要領ハ吉本博士ノ診察ノ結果更ニ本日三宅博士ニ診察ヲ請ヒタルニ脳症進行ノ状アリ入院ヲ可トストノ事也　今回モ仲氏同道セリ

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