五月二十二日附 パリ発信 母宛 封書 またぱりすへちよつとかへつてまいりました そのおんちにてハみなみなさまおんかわりなくおげんきのはづおんめでたくそんじあげまいらせ候 わたくしこともいつもあいかわらずげんきでございますからどうぞどうぞごあんしんくださいまし このごろハやつぱりまいにちてんきがわるくなかなかそとなどでべんきようをすることなどはできませんしそれからこのごろハまたもうひとつゑのはくらんくわいができましたからそれをみるためかれこれニちよつとこゝにかへつてまいりましたのです あしたハせんせいのうちにいつてかいてきたゑなんどをみてもらいそれからあさつてハまたいなかへかへつていつてべんきようをするつもりです このごろハもうそちらでハもうよほどおあつくなりましたでしようとぞんじます かまくらなどハさぞよいことでしようよ こないだあるひとニにつぽんのゑをかいてくれとたのまれまして七八まいちいさなゑをかいてやりました そのゑハゑいりしんぶんのようなしんぶんのゑニでるそうです もしそのしんぶんがでましたらかつておくつてあげませうよ こないだにつぽんでじゆんさがろしやのてんしのむすこニきりつけてけがをさしたといふことがしれましてしんぶんニもいろいろなことをときどきだします そのじゆんさがきりかゝつたときのゑだとゆつてきみようなおかしなゑをしんぶんニだしましたからおくつてあげます まことニばかなゑです(中略) いなかでわたしのてほんニなつてくれたをんなのやつニしんもつをしてやるのニなにをやろうかとおもつてかんがへてみましたがなんニもくれるようなものハありません それからだんだんかんがえてみましたところがそのやつハまだとけいをもつてをりませんからとけいをひとつかつてやろうというかんがへがでました さいわいこんどにつぽんのゑをかいたのでおかねがすこしとれましたからこれさいわいとそのおかねでちいさなとけいをひとつかつてやりましたらおゝよろこびをいたしましたよ まづこんどハこれぎり めでたくかしく 母上様 新太拝 せつかくおからだをおだいじニなさいまし
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一月二十四日 土 曇 午後雨 夜霙 (欄外 葵橋研究所)