1921（大正10） 年5月24日
五月二十四日 火 曇 午前十時水野子 青木子ト小笠原邸ニ会合シ伯爵留守中ノ出来事ニ関シ大要ノ報告的談話ヲナシ午餐ノ饗応ニ預リ匆々独リ十二時四十分辞去ス 一時宮内省ニ出頭 先ヅ調度ニ到リ二時過寮頭事務官等ト大臣室ニ集ル 銀盃製作問題未定ノ儘了リ居残リテ大臣ト一時間許語リ後又調度及御写真部ニ寄リ四時過帰宅ス（内匠頭ニモ遇ヒタリ） 宮内省ノ用事ハ盃ノ模様 美術品整理 屏風図案 技芸室 背景幕 賀陽宮様御写真（台紙等）
本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。
1921（大正10） 年5月25日
五月二十五日 水 半晴 十二時半頃水野子入来 午餐 二時同道小笠原伯邸ニ到リ青木子ト会合 要件ハ首相ノ催ニ系ル晩餐ノ場所ト人選ナリ X会ニテハ食前ニ伊集院大使ノヤツプ島ニ関スル座談アリ 食後ニハ關屋宮内次官 大谷総務課長等来リ 学習院問題ニ付種々ノ質問ニ答ヘ且ツ意見ヲモ述ラル 十時過曾我君ノタクシーニ同乗シテ帰ル
1921（大正10） 年5月27日
五月二十七日 金 雨 十一時半博物館ニ溝口氏ヲ訪ネ博物館ニ関スル用談ヲ遂ゲ序ニ薩摩屋女将持参ノ支那画ノ鑑定ヲ乞ヒ十二時頃学校ニ到リ和田教室ノ授業ヲナシ後チ藤島 長原 小林ノ諸氏ト語リ一時過退出セリ 二時過渡邊氏 三時過伊達孝太郎氏来ル 伊達氏ハ個人展覧会開催ニ就テ拙者ヲ其紹介者タラシメンガ為ナリ 夕刻画室ニ入リ最近廣岡氏ヨリ送付ノ寸法書ニ拠リ構図ノ準備ニ着手シ晩餐後モ亦画室ニ於テ書見 本田錦吉郎翁ノ訃 昨日逝去
1921（大正10） 年5月28日
五月二十八日 土 晴 （欄外 東海寺本田翁葬儀 森院長弔詞代読 国民美術総会 みかど）
1921（大正10） 年5月29日
五月二十九日 日 晴 （欄外 淳宮殿下御撮影）
1921（大正10） 年5月30日
五月三十日 月 晴 夜雨 （欄外 写生薔薇花 壁画材料撮影）
1921（大正10） 年5月31日
五月三十一日 火 雨 午後吉岡君病気重態ノ由電話アリ 来合セタル渡邊氏ニ同行ヲ乞ヒ自動車ニテ出掛ク 先ヅ隼町ノ薬屋ニテ酸素ヲ二筒求メ四谷ノ渡邊氏方ニ寄リ吸入器ヲ携ヘテ小石川第六天町ナル吉岡邸ヘ赴ケリ 大岡医師診察中ニテ婦人連枕頭ニ集マリ居リ 病人苦悶ノ体ナリ 黒田来レリト聞テ少シクウナヅキタル様子ナリシモ最早能クハ分ラズ 気ノ毒ナリ 菊地君来リ居タレバ同道シテ回ル 渡邊氏ヲ自宅ヘ送リ菊地君ハ赤阪見附下ニ下ロシタリ 五時頃帰着 直ニ絵ノ具ヲ取出シ昨日ノ写生画ニ加筆ス 六時ヨリ木挽町ノ花谷ヘ出向ク 総理ノ招待也 主人伯大木 伯小笠原 青木 前田 酒井 大河内 水野ノ五子主客計九名
1921（大正10） 年6月1日
六月一日 水 雨 午前十一時頃御写真部ニ到リ仮焼ニ就キ鑑査ヲナシ午後一時過退出ス 二時過小笠原伯入来 間モ無ク青木子 水野子連レ立チテ来会 重要々件ハ伯ノ境遇ニ関シテナリ 種々論談 四時過昨夜ノ御礼ヲ兼テ総理ヲ官邸ニ訪問セリ（此間岡崎邦輔氏来訪）
1921（大正10） 年6月2日
六月二日 木 曇 四時頃ヨリ晴 此頃ハ気候極メテ不順 殊ニ昨夜ヨリ気温大ニ下リ五月雨ヨリ寧ロ時雨時ノ感アリ 飯野氏ヨリ初漁ノ鮎五尾寄贈 午食後小室氏ト挿花ヲ談ス 二時過ヨリ御写真部ヘ赴キ手入ヲ始ム 四時ニ至ルマデ僅ニ一枚ヲ仕上ゲタリ 帰邸シテ又薔薇ヲ画カント思ヒタレドモ一輪モ見ルニ足ルモノナク不得止筆ヲ執ルヲ止メテ枝切ヲナセリ 使ヲ吉岡氏ヘ 晩食後青木子ヨリ電話アリ 文相ヨリ次官ヲ以テ会食ヲ申入レタリト云フ 直ニ水野トモ電話ニテ意見ヲ交換シ他日ノ面晤ヲ約ス 壁画ノ下図ニ関スル割出ヲ始ム
1921（大正10） 年6月3日
六月三日 金 半晴 十二時前御写真部ニ到リ弁当ヲ使ヒ修整ノ原図ニ従事ス 宅ヨリ電話ニテ小笠原伯午後二時頃来邸ノ通知アリタル趣キ知セタリ 因テ二時十五分前退出 小伯ニ先ヅ留守中ノ行動ニ付一般ノ説明ヲ試ミ将ニ終ラントセシ時青木 水野ノ二君入来 本日ノ会合ハ一昨日ノ問題ニ関シテナリ 法相ヘモ電話ニテ来邸ヲ乞ヒ九時頃迄引続協議ス 但シ法相ノミハ夕刻去レリ 今朝吉岡君ノ訃音ヲ始メトシ電話繁忙ヲ極メタリ （欄外 吉岡君午前五時逝去 和田君書簡五月十七日ホノルヽ発）
1921（大正10） 年6月4日
六月四日 土 学校ノ授業ヲ了ヘ文庫ニテ土出ノ支那人形ノ売物ヲ一覧シ吉岡君方ヘ廻ハリ一時半帰宅 三時例ノ三君来邸 水 青ノ二子ハ前田子ト水子邸ニ会合ノ為ニ去リ予ハ法相ヲ官邸ニ訪問ス 夜又三君ト会合 十二時ニ至ル 二時過中澤氏来訪
1921（大正10） 年6月5日
六月五日 日 晴 訪客 渡邊氏診察 島津邸木村氏陶器図案持参 三井ノ今萬氏白耳義ノ絵画 森岡氏 岡氏勘定日ニ付研究所会計 佐成氏（陸奧伯代）鎌倉同人会規則 仲氏 石塚要求処分案 計七名
1921（大正10） 年6月6日
六月六日 月 小雨 （欄外 吉岡君葬儀 小笠原伯邸小集）
1921（大正10） 年6月7日
六月七日 火 晴 訪客 松井海軍技師 大岡育造氏（午後留守中） 外ニ瀬野覺藏画会ノ件ニ付 御写真部ノ仕事今日ニテ一ト通リ了ル 留守中法相ヨリ電話アリ 帰宅匆々之レニ答フ 又水野子ト電話ニテ語レリ 六時ヨリ今福ヘ赴ク 佐野 久米 合田 菊地ト五人会食ス 小代ハ無断 竹澤ハ病気ニテ来ラズ （欄外 今福老人会）
1921（大正10） 年6月9日
六月九日 木 晴 （欄外 読書会後藤男邸 小笠原伯邸 青木子 水野子問題解決 吉岡君初七日 頼倫侯電報）
1921（大正10） 年6月10日
六月十日 金 曇 午後温室ニ入リ枯レタル蘭科植物ヲ二三鉢取片付ケ又他ノ鉢物ノ手入ヲナス 夫レヨリ渡邊氏ノ診察ヲ受ケ水野子ト司法関係ノ問題ニ就キ語リ中井氏ハ宮様ヨリノ賜物ヲ持参シ序ニ下絵用ノ割出見本ヲボール紙ニ貼付テ帰ル 時ニ六時ナリ 伊集院大使ニ招カレテ又赤阪ノ瓢屋ヘ赴ク 今回ハ貴院議員ヲ主トシテ招キタル晩餐会ナリ 但シ薩人ノミ 十時半頃帰宅ス 村田氏紹介ノ透電機発明者高橋龍三郎氏来リ十二時過マデ
1921（大正10） 年6月11日
六月十一日 土 雨 午後二時南部伯 同夫人来訪 少シク遅レテ岡野氏モ来リ今秋ノ聊娯会ノ印刷物等ニ付打合セアリ 今年ハ出品者増加ノ見込アリ各自ノ出品点数ヲ更ニ制限スルコトヽナル 本日ハ午前ヨリ下痢ヲ催シ客去リテ後服薬シテ寝込ム 但シ下剤
1921（大正10） 年6月12日
六月十二日 日 雨 終日昨夜ノ儘表座敷ニ床ヲ伸ベテ寝タリ起タリニテ暮ラス 腹具合幾ンド癒リタレバ今夜ハ二階ヘ回ル 訪客ハ午食時渡邊氏来診 改メテ服薬ス 岡氏 静子殿 是丈ニテ夜ニ入ル
1921（大正10） 年6月13日
六月十三日 月 半晴 郵船ノ西郷氏ヘ写真ヲ返ヘス（明治四十四年頃預リタルモノ） 下痢全ク止マル 渡邊氏来診 午餐 吉本博士依頼ニ応ジテ中村君ヲ診察ス 今午前中ナリ 容態等ハ診察ニ立合ヒタル渡邊氏ヨリ聞ケリ パルテノンノ臨写的下図ニ従事シ漸ク大体ノ位置ヲ定ム 村田丈ノ為メ有楽座ノ見物ヲナス 村田 東儀ノ連合劇ナリ 電話ノ主ナルモノハ島津家ノ木村氏 青山ノ平岡氏 小川一眞氏等
1921（大正10） 年6月15日
六月十五日 水 小雨 （欄外 御写真部 調度寮 高嶋屋及西川 小笠原伯 水野子）