1891(明治24) 年6月6日


 六月六日附 グレー発信 父宛 葉書
 四月十九日附母上様よりの御手紙先日慥ニ相届き拝読仕候 皆々様御揃益御安康の由奉大賀候 次ニ私事至而元気矢張田舍にて勉強罷在候 先日より牛の画一つかきかけ候処已ニ殆ンド出来上り候間其れを持ち巴里へ二三日の内ニ出掛る考ニ御座候 而気晴らし旁風景研究の為久米氏と共ニ仏国東南境よりスイス国辺へかけて三週間か一月程旅行の見込ニ候 景色のよき地ごとニとゞまり画をかき何日ニ何地迄行着などときめる事ハせぬ積ニ御座候 巴里より五六十里の処迄気車にて行きそれから先ハぼつぼつ歩き進み可申候 気車ニてハ景色ハ見へ不申候 以上
 父上様  清輝拝