1904(明治37) 年5月29日 Sunday


五月廿九日 日曜 晴

昼後佐野来り、小代を訪ひ三人で散歩、附近の植木屋をひやかし、又青山御所前の草花を見る。中々綺麗な花が沢山あつた。一寸佐野がゼラニオムを買ひはじめてから小代も媼さんの調子の佳いのに乗せられ、終にはわれも引込まれてナデシコを一鉢とそれからセキコクを一つ七拾銭といふのを五拾銭に負けたのでしよいこみになる。媼さんは息子が兵隊になつて居るから、娘と二人女手で商売をして居ると話した。三人とも左右の手に植木鉢をブラ提げて帰つて来た。小代の処に立寄つたが、内から小供が二度ばかり迎に来たといふ事で必定小泉が来て居るのが分つた。何しろ植木を持つたので大にくたびれたから一と休して五時過に帰つて見ると小泉高信がこまを相手にして既に始めて居るのであつた。間もなく小父さんも来て大に賑ひ野田岩の丼飯の注文が遅くてやりながら食するに暇なしである。

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「1904/05/29 久米桂一郎日記データベース」(東京文化財研究所) https://www.tobunken.go.jp/materials/kume_diary/871386.html(閲覧日 2024-05-11)

同日の「黒田清輝日記」より
 五月二十九日 日 晴
 漸次御快方ノ様子ナリ 小西氏午後二時頃来診 本日午後一時過沈没艦将校ノ葬式有リ 大体ニ於テハ広瀬中佐ノ葬儀ニ同ジ 見舞トシテ午後三時頃黒田清二氏及山本翁ノ妻君来訪 山本ノ妻君丈ハ二時間程語リタリ 後芍薬ノ花ヲ描カントシテ筆ヲ執リ十五分間斗ニシテ中丸君来訪 暫時語ル 是レニテ夜ニ入ル 夜食後直綱来談 又児猫ノ戯ムルヽヲ観ル 而シテ九時頃ヨリ十一時半マデ来月一日ヨリ一週間開設ノ献金展覧会へ出品スベキ油画ノ整理ヲナス
 (発信)高信ヘ横浜ニテ撮影ノ写真贈与ノ礼 磯谷一平ヘ油画運搬ノ件依頼
五月二十九日 日 晴