1904(明治37) 年11月20日

此頃は実に不思議な天気続きで畠なんかは既に雨を祈つて居るそうであるがこうなると中々降らない。今日又取り分け好晴で前週よりの約束によりこま及彬を連れて紅葉見に出掛ける。九時少し前に家を出で山内より街鉄の電車で上野に至り停車場で少時待合せて十時廿五分の汽車に乗込む。三等車中々の雑踏である。十一時前に王子で降り稲荷社を経て滝の川に向ふ。もう十余年前に来たのだから此辺の様子は全く違つて居る。滝の川で茶屋に休む。日曜であるから人出は多いが制服を着た学校の生徒が大多数で余り有福な方は少ないやうである。夫から途中滝不動というのを一寸見物し飛鳥山を下りて停車場に近つくと丁度汽車が来たので之に乗り上野に一時に着き電車で新橋まで走り、橋善で昼飯。今日は奥座敷の奇麗な室に始めてはいつた。夫から日影町を歩いて切通しを昇り三時に帰宅。今夜は早寝で九時にはおひけにした。夜中猫から騒動が始まる。追記、王子よりの帰途飯倉で大植木鉢を買つて来てゼラニオムの根分けをした。

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