1892(明治25) 年10月16日


 十月十六日 日
 昨夜小僧が内ニ来て泊た 難儀話など聞く 起きると直ニ書物の片付などやらかす ばあやニひるめしヲこしらへて貰て内で小僧ヲ相手ニ食ふ 約束通り一時頃ニ人足二人来る 二時過迄仕事して重ナルものハ大低車ニ積て仕舞た 跡ハ婆やニ打まかせて置て出る お車に被召寺尾氏ヲ新宅ニ訪ふ 一緒ニ日本人会へ行 夜帰へり懸マドレンの方へ行ク サントノレ町で鶴田君ニ麦酒の御馳走ニ為 鶴田君ハ今でハ一番古キおなじみ也 近々の内ニ日本へ帰るとの事 後小僧 杉 植木屋等に別レマドレヌより乗合ニ乗て帰る 今夜ハもう内の道具ハ皆寺尾氏の方へ送て仕舞てないけれども小僧が残して置た寝台ニばあやのお憐みで奴の布やかぶり物を懸けてねる事と為た 此の内ニネるのも今夜限り 夜中ニちよいと虫ニ食れて目がさむ