七月三十一日附 パリ発信 母宛 封書 (前略)みようにちからこのがつこうをでましてこうしくわんのきんじよのやどやにとまりにゆくつもりです おやすみぢゆうはそのやどやにおるつもりですからさようごあんしんくださいまし このやどやはこつちについたころなをよんさんと一しよにおつたりつぱなやどやです 一日ぶん六ふらんのやくそくでとまることにきめました 六ふらんはにつぽんのかねで一ゑん二十銭ぐらいです につぽんのかんがへではたいへんたかいものですけれどもこちらでこのぐらいのやどだいはつうれいよりしたではございますけれどもうへではございません なをよんさんにおきゝなさればよくよくわかります このやどやなんどのことはみんなまつがたさんのおせわです ぜんたいこのやどやはわたしなんどのやうなこぞうがおるようなところではありませんけれどもなつのことにてやどをするひとはすくなくそれゆへ一日ぶん八ふらんといふのをまつがたさんがようやく六ふらんにまけさしてくださいましてとうとうこゝにおることになりましたよ(後略)
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九月五日 火 (鎌倉) 且ツ読ミ且ツ画想ニ耽ル 遂ニ一図ヲ得タリ