1917（大正6） 年5月8日
五月八日 火 快晴 三田慶應義塾前ニテ松方巖君ノ自動車ニ出遇ヒ招カレテ同乗島津邸ニ入ル 両陛下午前十時四十分御着 午後五時還幸啓被遊タリ 先ヅ大過ナク受持ノ仕事ヲ済マセタルハ何ヨリ仕合ナリ
本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。
1917（大正6） 年5月12日
五月十二日 土 曇 午後小雨 午前十時半頃渋沢男爵寿像競技鑑査ノ為高等商業学校ヘ赴ク 終リテ午餐ノ饗応ニ預ル 午後二時参謀本部ニ到リ大山公銅像建設ノ協議会ニ列ス 森 塚本ノ二博士同席ス 五時過夕食ヲ共ニシ後チ三宅坂ナル建設予定地ヲ視察シテ別ル
1917（大正6） 年5月14日
五月十四日 月 午前朝倉文夫氏ノ紹介ニテ宇佐穩來彦ト云フ人工部省美術学校時代ノ洋画数点持参鑑定ヲ請ヘリ
1917（大正6） 年5月17日
五月十七日 木 晴 午前十一時半頃牧野男ノ招致ニ依リ東京倶楽部ニ於テ松方氏 早川氏ト四人会合 画家 音楽家ノ謝儀ニ付協議セリ 正午辞去ス 五時有賀氏来訪 先般依頼ヲ受ケタル末松子爵所蔵ノ油絵ニ付評価ヲ試ム
1917（大正6） 年5月19日
五月十九日 土 晴 松方乙彦君ヘ茶休図ヲ送ル 要塞ヘ模写許可証ヲ返納シ又出願ス 夕刻一時間許三浦博士依頼ノ木炭肖像画ヲ画ク
1917（大正6） 年5月20日
五月二十日 日 晴 午前十時頃白山翁来訪 先般来ノ内情ヲ聴ク 後チ校長ニ面会セント欲シテ電話ヲカケタレドモ不在ナリシ 又来訪ノ白瀧 中井ノ二氏ヲ留メテ共ニ午食ヲ取リ午後三時頃マデ談話ス 四時過ヨリ少シク三浦氏ノ肖像画ニ従事ス
1917（大正6） 年5月21日
五月二十一日 月 晴 夕刻ヨリ雨 午前十一時ヨリ女学部ニ出勤シ新設ノ美術講話ノ時間割ヲ定メ午後一時頃退出ス 六時袖ケ崎ニ到ル 今夜御招ニ預リテ行幸啓準備委員慰労会ニ出席ス 九時辞去 松方正作君ノ自働車ニ同乗シテ仙台坂ノ邸ヘ赴ク 乙彦君モ来リ鼎座十一時迄美術品ノ鑑賞談ニ耽ル
1917（大正6） 年5月22日
五月二十二日 火 晴 漆工科ノ件ニ付校長ニ面会シ午前十一時過ヨリ午後一時マデ話ヲ聴ク 之レガ為授業ノ時間ヲ失ヘリ 午後二時過マデ自働車ヲ待ツ 此間焼物場ニ到リ近況ヲ視察ス 帰途流逸荘ニ寄リ野村氏ヲ誘ヒ還ル 又序ニ虎ノ門外晩翠軒ニテ硯ヲ覧三時半頃帰宅セリ 杉浦氏待受居リ帛紗図案ニ就相談ス
1917（大正6） 年5月23日
五月二十三日 水 午前十一時半頃白山氏ヲ木挽町ニ訪問シ昨日校長トノ会見ノ模様ヲ語リ辞職ノ不可ヲ説キ一時過辞去 中村勝君来リ後松方正作君見ユ 午後五時半頃ヨリ築地水交社ナル樺山伯ノ祝賀会ヘ出向ク 隣ニ川路君在リ 重ニ故友平田恒彦ノ事ヲ語レリ
1917（大正6） 年5月24日
五月二十四日 木 曇 午前十時半過千田貞幹氏ト男爵齋藤實氏方ニ会合ス 依頼ニ依リ油絵ノ鑑定ヲナセリ 画ハ三点ニテ故キヨソネ翁ノ所蔵セシモノナリト云フ 午食後植木屋ノ指図ヲナシ又薇薔花ヲ写生ス 五時頃三越洋服部ヨリ外套ノ仮縫ヲ持参ス 夜漆工科研究生高野某来ル 亦仲省吾君来リ夜半マデ贈物ニ付相談セリ
1917（大正6） 年5月25日
五月二十五日 金 晴 美術学校授業 午後二時半帰宅 高嶋屋袱紗地持参 但シ仲氏同道 白山 堀井ノ二氏例ノ件ニ付来訪 帝国ホテルニテ催サレタル雨潤会ニ出席ス（富井氏ヲ除キ会員全部出席）
1917（大正6） 年5月26日
五月二十六日 土 晴 両皇子殿下ノ御写真出来セルニヨリカビネ形ノモノヲ除キ全部調度ニ提出ス 午後少シク一昨日ノ薔薇花図ニ修正ヲ加フ
1917（大正6） 年5月27日
五月二十七日 日 晴 吹上御苑内ニ於テ剣術御前試合ノ御催アリ 陪観ヲ許サルヽ趣御達アリタレバ午後一時参内シ四時過終リテ退出セリ 晩餐前ヨリ左記ノ諸氏来訪 大迫經安 中澤弘光 田中岩次郎 清水良雄 長尾一平長尾ヘハ過般来注文ノ額縁代全部及在巴里青山熊治ヘ送ル可キ花環ノ割前三十法其合計金二百円也ヲ払ヒ渡ス
1917（大正6） 年5月28日
五月二十八日 月 晴 園内ノ薔薇 コクリコ マルグリツト等満開也 池中ニ金魚ノ孚化シタルモノ無数ニ見ユ 睡蓮ノ蕾モ水上ニ現ハル 午後ハ岡野氏ト語リ夜九時頃矢崎子入来 白瀧子トノ約束ニ依リ井戸端ノ雪ノ図ヲ磯谷ヘ渡ス
1917（大正6） 年5月29日
五月二十九日 火 晴 午前九時物集高見翁来訪 余少時翁ヲ見タル事アリ 翁モ亦此事ヲ記憶セラル 十一時半麹町ニ新設ノ田中自動車店ノ車ヲ雇ヒ登校ス 授業後長原君ヲ誘ヒ同乗シテ巣鴨村ニ早崎稉吉君ヲ訪ネ古硯ノ事ヲ依頼シ又同君所有ノ南画ヲ観タリ 三時半頃帰宅 中食ヲナス 在邸一時間許ニシテ外出セントシテ三浦博士ノ来訪ニ接ス 今晩夕食ニ矢崎ヲ主賓トシ中澤 岡野ヲ招ク
1917（大正6） 年5月30日
五月三十日 水 薄日 夜小雨 坂井 杉浦ノ外中澤 石川 中川 安田ノ諸氏ニ遇ヒ明日開会ノ筈ナル兩川 澤 田ノ四氏が写生セル朝鮮 台湾 樺太ノ風景画展覧会ヲモ一覧セリ
1917（大正6） 年6月2日
六月二日 土 晴 本日ハ何トナク疲労ノ気味ニテ回礼ノ元気ナシ 午後三時過ヨリ庭ノ美人草ヲ二十号ノ画布ニ写生シ気分回復セリ
1917（大正6） 年6月3日
六月三日 日 晴 午後四時過中村君奈良ヨリ昨朝帰リタリトテ入来 十時頃マデ土産話ヲ聞ク 午前中早崎氏（硯ノ件）及ビ白山翁見エタル由ナリ 白山翁ヨリ宝珠形ノ香合ヲ贈ラル。
1917（大正6） 年6月4日
六月四日 月 曇 夜雨 午前十時頃末松子爵入来 紀念品ヲ贈ラル 十一時ヨリ十二時過マデ女学部 夜小林萬吾君来ル
1917（大正6） 年6月5日
六月五日 火 雨 近清君 小室ト云ヘル南宗派生花ノ先生ヲ同道シ紹介セラル 自今五 十二来邸ノ事ニ約定ス 照子稽古ノ筈也 陸奧伯帝国ホテルニ訪問シ木彫奨励ノ件及ビ二学生ヘ辞令書交附ノ方法其他ニ就キ語ル 坂井犀水君雑誌ノ為仏国ノ美術館殊ニ伊国ノ漫遊ニ就キ記憶ニ存シタル儘ヲ語レリ