1892(明治25) 年10月18日


 十月十八日 火
 のこして置た荷物を御本丸ニ取りニ帰る もう之れが此の家の見おさめ也と思ふと心地よろしからず 門番の婆やハ居らず 婆やの母が居たから奴ニ金を渡して別れを云た またお目に懸り度いもんでございますなんと云ハれたのニハ益面白からぬ気分ニならせ上つた 過し年ブランケンベルクから記念として持て帰て来た枯れ草を紙ニ包で持て居たのを見てアヽ田舎の草私の在所に其草が沢山ございますが其シヤルドンの葉ニ置た露ハ目のお薬でございますと云のを聞てしきりにブランケンベルクニ遊ビし頃の事を思ヒ出しぬ
  かたみとて君かつみてし草の葉ニ置く白つゆハそのなみたなり