1904（明治37） 年7月25日

　七月二十五日　月　雨　涼
　本日ハ小西氏モ来ラズ　午後御体温八度以上ニ達シ御気分余リ宜シカラズ　殊ニ御食欲大ニ減ゼリ　心配ノ余リ愈ベルツ博士ニ来診ヲ請フコトニ決シ電話ニテ問合セタルニ同博士ハ当時日光ニ赴キ居リ明日カ明後日頃帰京ノ筈ナリト　因テ帰京次第通知ヲ乞フ旨ヲ頼ミ置ク　午後一時半頃父上御入来　平岡八郎君ノ戦死ニ付キ左ノ歌ヲ御読ミ被下タリ
　万代に誉そのこる国の為めよくこそ身をハつくりたりけれ
　父上ニ先チ中村来レリ　夜照　勝　知等同道井田女ヲ訪フ　同女病気故医師ヲ頼ムナド一通リ世話ヲナシテ帰ル　十一時就寝　今夜中村ハ泊ル　本日ノ二六紙上ニ拙者ノ画キタル八郎君ノ肖像ヲ掲載セリ

午前十一時雨中なれど約束手形期日に付丁酉銀行に赴く。金利引上の為め二銭一厘に改正した。大分の違ひになる。用事を済して後学校へ廻り俸給を受取、三時帰宅す。今日も露艦事件号外の声あり。旅順祝捷の支度は一ヶ月前に準備整ひ、今に実行せられず。而して一方には露艦太平洋に横行して商船の航路止り東京横浜食米の欠乏を報ず。連戦連勝も中々甘い事斗りはないのである。（七月廿五日 大雨）