本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1900(明治33) 年5月28日

 五月二十八日 (欧洲出張日記) 玄海も思ひの外静であつた 今朝三時に船が止まつたので目がさめた 窓からのぞいて見ると陸が近く見える 長崎港の入口ニついたのだ 又寝床ニ這入つて六時頃に再び起きた 長崎港ハ今朝の九時ニ出帆だといふので上陸する暇がない 内と鹿児島とへ出す端書を書いて三井物産の人ニ頼で出す 其内ニ三井物産の小汽船が有るから一寸町へ行て見様かと云話が起り佐藤 岡崎 飯塚の三氏と上陸 皆一寸した買物を為し又オレハ内へ安着の電信かけた 船へ帰つてから安藤へやる手紙をかき三井物産の人ニ頼で出した 三井の人ハつまり佐藤氏の為めニ来たものと見える 今日ハ午前の内ハいゝ天気だつたが午後曇て来た 又沖ニ出るニしたがつてうなりがつよく為つて四時頃ニハ船が随分つよく横にゆれた 今晩の食事にハエイマールと岡崎氏と長崎から乗つた希臘人だと云ふ奴とオレと四人丈だつた

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