1893(明治26) 年6月1日


 六月一日附 ブロル発信 父宛 封書
 皆々様御揃益御安康奉大賀候 私立仕度も今ハ全クすみ只舟の出る日を待ち暮居るの姿ニ御座候 巴里ニてぶらりと致し居れバつまらぬ事ニ物入多く且何となく心せわしく候故又々例の如く田舎ニ引込みゆつくりと最後の日を送る事ニ御座候
 今度の田舎ハ巴里より気車にて僅一時間半計の処ニ御座候 泊り客七八人も有之候得共皆静かな連中にて仕合の儀ニ御座候 私ハ手本ヲ雇ひ毎日野原の木の蔭にて勉強仕り面白く暮し申候
 船ハ来月十七日ニ出る筈の処十三日ニ相成候 十日頃迄ハ此処ニ画などかき遊ビ居積ニ御座候(後略)
 父上様  清輝拝