本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1893(明治26) 年4月14日

 四月十四日附 パリ発信 父宛 封書 先便より申上候通り共進会一件も首尾能く片附き画の方の事ハ全く終り申候得共引上の為ニ日々面倒臭き事出来いそがしく暮し居申候 久米氏も来月の十日頃ニハ当地出発 先づ伊太利国を一通り見物しエヂプト印度を経て帰朝さるゝの見込ニ御座候 私も亜米利加を通らぬ事なれバ此の上も無き道連 数年間一緒ニ学ビたる上世界一の美術国を共ニ経廻り歩き金の盡次第ニ舟ニ飛ヒ乗り帰り行こそ愉快千万ニハ御座候得共何分ニも東西ニ別れねばならぬ道都合残念至極ニ御座候(中略) 帰り着て直ニ困らぬが為六尺計の幅の布長さ四丈半計手ニ入れ試ニ送り出す様絵具屋ニ申付候 絵具ハ別ニ独乙国ノミユニクと申処へ注文可致存候 此の絵具ハ未だ試み下申候得共近頃の発明とかニて余程よろしきとの事承り候(後略) 父上様  清輝拝

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