本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1893(明治26) 年4月3日

 四月三日附 パリ発信 父宛 封書 御全家御揃益御安康奉大賀候 此頃ハ毎日天気よろしく木も余程青く相成申候 巴里の森も此年ぎりと思ヒ眺申候事ニ御座候 野村靖氏の為ニかき申候女子裸体にて化粧の図共進会ニ受取られ申候 仕合の儀御安心奉願上候 二三日の内ニ気晴し旁倹約の為メ田舎遊ニ出懸申度存候 久米 寺尾 大鳥諸氏已ニ田舎の方へ被差越候故巴里ハ殊の外淋しく相成候 貝坂の杉氏の三男梅三郎と申者二三日前ニ当地着 昨夜独逸へ被立候 梅の兄竹二郎五六年前より当国里昂府留学 今度弟の道案内として当巴里へ来候 兄弟共日本ニて知り合居候故久し振にての面会うれしく覚申候 昨日ハ一緒ニ終日暮し申候 梅公の話ニ赤坂見附下辺の体裁余程変り候様子 九年間ニ変り候事不少と奉存候 余附後便候 早々 頓首 父上様  清輝拝  御自愛専要ニ奉祈候

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