本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1889(明治22) 年8月2日

 八月二日附 ボアニュビル発信 母宛 封書 こないだおゝさこさんがぱりすにおつきになりましてわざわざわたしのうちまでたづねてきてくださいましたといふことをきゝましてさつそくいなかからかへつてゆきおゝさこさんのおやどをおたづねいたしましたところあいにくおるすにてざんねんなことでございました またそのときにおゝさこさんのやどやに一しよニとまつてをるひとからまつがたさんがきようだいさんにんづれそれからかばやまどんのあいすけさんがきてをいでなさるとゆうことをきゝさつそくたづねていつてみましたらみなさんおうちにてまことにうれしくそのひハしゆうじつ一しよにをりましてハくらんくわいなどけんぶついたしました さてまたそのよくじつにまたおゝさこさんをおたづねいたしましたところまたおるすにておめにかゝりだしませんでした そのひにハこうしのむすこさんのたなかとゆうひとゝそれから一ねんばかりまへににつぽんへおかへりニなりましたおらんだのこうしのむすこのなかむらさんといふひとたちと一しよにあそんでくらしました またにつぽんふうのぎゆうなべなどをくめさんのうちでこしらへてたべました ぱりすにいておなしとしぐらいのともだちなんかとバかばなしをしたりなんかしてぶらぶらとしてをるのハ二三にちはおもしろうございますがながくなるとたいくつです またそのうへにいなかにひつこんでじつとしてをるのにくらぶれバおかねもたくさんかゝりますからバカげたはなしとぞんじましてそのよくじつハあさ十一じはんごろのきしやでまたまたいなかにひつこんでしまいました まいにちべんきようをしてをりますからごあんしんくださいまし(後略) 母上様  新太郎(後略)

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