1903（明治36） 年7月13日
七月十三日 月 午前晴 午後雨 （関西出張日記） 朝七時半ノ新橋発急行列車ニテ下阪ノ途ニ上ル 同行三人 名古屋ニ四時半ニ着シ停車場前ノ佐東ト云フ宿屋ニ泊ル 今夜下山芳子殿来訪 而ルニ拙者ハ夕刻ヨリ頭痛甚シク為メニ談話スル事サヘモ不叶
本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。
1903（明治36） 年7月14日
七月十四日 火 終日雨 （関西出張日記） 十時頃再ビ芳子殿来訪 十二時二十五分ノ汽車ニテ京都ヘ向ケ出発 芳子殿及松下弁次郎氏見送ラレタリ 五時半七条停車場着 松吉旅館番頭出迎フ 宿屋ヘノ途中前田慶次郎氏ニ行キ遇フ 夜堀江氏ヲ訪ヒ後京極見物
1903（明治36） 年7月15日
七月十五日 水 半晴 夜少シク雨 （関西出張日記） 堀江 安藤ノ二氏来訪 安氏ト昼食ヲ共ニシ後打連レ立チ清水ヘ行キ円山知恩院ヨリ平安神宮ノ方ヘ回リ帰ル 夜京極俄芝居見物 閉切ハ正十二時ナリ
1903（明治36） 年7月16日
七月十六日 木 晴 （関西出張日記） 博覧会見物 同行安仲 紫明 種子 午前九時十五分七条発ニテ行キ午後九時四十分天王寺発ニテ京都ヘ帰ル 昼飯ハ美術館横手ノ旅店組合ノ設立セル茶見世ニ於テ夜食ハ高津山好静館ニ於テス 夜食後再入場 イリユミネシヨンヲ観ル 京都七条停車場ニ着シタルハ夜十二時十五分過ナリ 場内ノBuffetニテ麦酒ヲ飲ミ安藤ニ別ル 大阪ニテ下ノ諸氏ニ面会セリ 岩下 宇和川 杉浦 矢崎
1903（明治36） 年7月17日
七月十七日 金 晴 （関西出張日記） 午前九時頃ヨリ三条通金物屋奈良忠店ニテ祗園祭ヲ観ル 人多ク夫レニ暑サハ非常ニテタマラズ 此ノ店ヲ立出テ紫明ト二人ニテ京都新聞社ヲ訪フ 堀江不在故ニ宿屋ニ帰ル 午後大阪ヨリ矢崎 宇和川 佐藤ノ三氏来ル 宇 佐二氏ハ夜食前ニ去リ矢ハ残ル 夜四人連（紫明 種子 矢崎氏ノ三人同行）ニテ六角ノ池坊生花ノ陳列ヲ観ル 後四条ノ御旅所ニ到リ此処ニテ矢崎ニ別レテ帰ル
1903（明治36） 年7月18日
七月十八日 土 晴 （関西出張日記） 午前九時電報ニテ送金ヲ申送ル 今朝安藤 堀江 大森ノ三氏来訪 十二時少シ過伊東陶山氏方ヘ行ク 安藤 大森氏等陶画会ヲ此処ニ催シタレバナリ 暫時シテ安藤ヲ誘ヒ去ツテ先斗町菊水ニ行キ食事ヲ為ス 三時頃安藤ニ別レ紫 種ト三人ニテ金閣寺ヲ観ル 夕刻帰宅 夜食ノ時安藤ハ已ニ食事ヲ済マセテ来ル 吉岡不図大阪より尋ね来リ 風呂二入リ食 暫ラク話シテ去ル 同氏ハ四条磧ノ様子ヲ観十二時十五分ノ汽車ニテ帰東ノ筈 今夜種モ吾モ甚シク下痢ス 安藤ニ頼ミ薬ヲ得テ之レヲ服用スルモ治マラズ 午前二時過ヨリ眠ル事ヲ得タリ
1903（明治36） 年7月19日
七月十九日 日 晴 （関西出張日記） 種頭痛烈シキ為終日床ニ在リ 氷嚢ニテ脳ヲ冷ヤス 然シ下痢ノ方ハ殆ンド癒タルガ如シ 吾ハ今午前二時限ニ下痢ハ止ミ頭痛ハ起ラズ 但シ少シク熱有ル如クニテ食欲進マズ 安藤来訪 昼飯ニ留メタリ 午後安藤ノ世話ニテ医師臼井某ヲ聘シ二人共診察ヲ乞ヒタリ 又堀江ノ妻君長女ヲ連レテ来訪セラル 種病苦ノ中ニテ談話不叶不都合ナリシ 夜安藤再ビ来ル
1903（明治36） 年7月20日
七月二十日 月 晴 （関西出張日記） 種ハ疲労ノ為本日モ床ニ在リ 午前臼井氏来診 午後大ニ快方ニ向フ 夜安 堀等ト発句会ヲ催ス 皆ニテ名吟十数首ヲウナル
1903（明治36） 年7月21日
七月二十一日 火 雨 （関西出張日記） 十一時頃堀江君ヲ訪ヒ共ニ臼井 谷口ノ両氏ヲ訪フ 十二時頃種ヲ堀江君方ヘ呼ビ寄セ一時頃宿屋ヘ帰ル 午後臼井氏又来診 此時岩佐恩順坊来ル
1903（明治36） 年7月22日
七月二十二日 水 少シク雨 （関西出張日記） 午前京都新聞ノ北村鈴菜氏 日出ノ井手通氏ニ面会 質問ニ応ジ談話ヲ試ム 午後三時過ノ汽車ニ乗ル 出立前堀江君来訪 名古屋ニ下車ノ筈ナリシモ新橋ヘ直行スル事ニ決シ大垣ヨリ電報ニテ此旨名古屋ナル下山家ヘ通知ス 即チ名古屋駅ニテ下山芳子殿親子三人及ビ松下氏ニ面会セリ
1903（明治36） 年7月23日
七月二十三日 木 少シク雨 今朝帰京 聊カ送別ノ意ニテ夕飯ニ清ヲ留メタリ 白尾来合ハセ共ニ食事ヲナス 清ハ明朝帰営ノ筈
1903（明治36） 年7月24日
七月二十四日 金 午後三時過ヨリ雨 来客 午前岩下君 午後小原君 日比野勇次郎君 午後二時四十分ノ汽車ニテ母上鎌倉橋口家別荘ヘ御越相成 兼清同道夜食後橋口家ヲ訪フ 十一時頃帰宅
1903（明治36） 年7月25日
七月二十五日 土 曇時々雨 来客 午前磯谷 和田英作 小原ノ三氏 午後小林萬 午前客ト語ル 午後少シク雑誌ナドヲ読ム 四時小林君来ル 同道シテ岩下君ヲ訪フ 後小林君ト別レ橋口家ヘ行ク 六時過帰宅 夜天神ノ縁日ヘ行ク
1903（明治36） 年7月26日
七月二十六日 日 昨夜二時頃橋口家ヨリ電話ニテ病勢一変報有リ 大ニ驚キ直ニ行ク 幸ニシテ一時ノ変動タルニ過ギズ 朝七時頃高木氏ノ診察有リ 十時半頃一ト先ヅ帰宅 十二時頃マデ植木鉢ノ世話ヲナシ午後少シク眠リ二時頃ヨリ七時頃マデ橋口家居リ夜モ九ヨリ十一時マデ同断
1903（明治36） 年7月27日
七月二十七日 月 晴 朝橋口家ニテ植木屋 火消等ノ下知ヲ為シ又障子張等ノコトヲモ指図セリ 午後一時ヨリ五時過マデ文部省会議 帰途橋口家ニ立寄ル 荒川氏在リ 夜食後照ト橋口家ニ行ク 後麹町ヨリ赤阪ヘ回リ帰ル
1903（明治36） 年7月28日
七月二十八日 火 晴 午前九時半頃小林君来ル 十時半頃去ル 十一時頃久米来ル 信州旅行談 学校規則改正案相談其他身ノ上ニ関スル雑談等ニテ四時頃マデ語ル 夜食後橋口家ヘ行く 病床ノ横手ニテ三味線ノ最中ナリシ 樺愛来合ハセ暫ク共ニ語ル 後打連テ麹町ヲ散歩セリ
1903（明治36） 年7月29日
七月二十九日 水 晴 本日樺山伯着京 夜橋口家ニ来ラル 今夜高木氏モ来診 容体至テ悪シ 樺伯モ八時頃ヨリ十一時半頃マデ語ラル 町田氏夫婦泊ラルヽニヨリ拙者ハ十二時過帰宅 今夜鹿児島平岡氏祖母様御病気ノ報有リ
1903（明治36） 年7月30日
七月三十日 木 晴 夜十一時頃ヨリ雨 本朝十一時頃ヨリ三時過マデ橋口家ニ居リ夜食後亦橋口家ニ行ク 容体作日ニ比シ少シク快キ方ナリ 十二時頃帰宅 今朝平岡氏祖母様御危篤ノ報ニ接シ午後八時頃更ニ御逝去ノ報知有リタリ
1903（明治36） 年7月31日
七月三十一日 金 朝雨後晴 鹿児島ヘ電報ヲ出シ又父上 姉上ニ代リ花料ヲ贈ル 十時半和田英来リコラン先生ヨリ贈与ノ先生ノ写真ヲ呉レタリ 三時頃マデ語ル 午後清秀モ来リ暫時画室ニテ語ル 夜九時頃ヨリ橋口家訪問 樺山愛モ来ル 町田氏モ来リ 野村医師ニ来診ヲ乞ヒタリ 安心ノ為メ野村氏ニ泊ツテ貰フコトニナリタリ 樺君ト共ニ十二時頃去ル
1903（明治36） 年8月1日
八月一日 土 晴 十時頃前久米 合田 小林ノ三氏殆ンド同時ニ来ル 小林ハ本日大阪ヘ出発スルヨシナリ 久米ト共ニ早稲田伯ヲ訪フ 昼飯ノ御馳走ニナリ二時頃マデ語ル 帰途橋口家ニ立チ寄ル 今日ハ少シク宜シキトノコトナリ 夜溜池ニテ牛呑会 十二時頃帰宅ス