1884(明治17) 年8月14日


 八月一四日附 パリ発信 母宛 封書
 六月二十日の御てがみさる十日にあいとゞきありがたくさつそくはいけんいたしましたところみなみなさまおんかはりなくおげんきのよしなによりけつこうでございます こゝもとにてはなをえもんさんもわたくしもしごくのげんきにてたつしやなことたつしやなことたつしやなことですからごあんしんくださいまし けつしておしんぱいなどはめしもすな ばかげたことですよ このまへのびんに申てあげましたとうりなをえもんさんとおなじげしくやにげしくをいたしております そうしてごぜんも一しよにたべます よるなんどうんどうにも一しよにでます またしじゆうなをよんさんのへやにいつておりましてはなしなどをいたしております よいことよいこと このげしくやはたいへんよいものをたべさします につぽんでゆえばせいようけんのごちそうとでもいふようなあんばいです あさはうしのちゝを一がうばかりのみます それとぱんをたべます おひるのごぜんはたまごににくがふたしなばかりそれからあとでくだものをたべます ばんのめしにはそつぷにむろん このむろんというのはかぼちやのとうりのかたちにてあぢはちよつとまくわうりのあぢです それからほかにうしかひつじのにくがふたしなばかり それから一ばんあとでおくわしとくだものです このくだものはすもゝかぶどうです まいにちまいにちまいにちこんなけつこうなごちそうをたべております
 いつもいつもくわしきにつきをおんおくりくださいましてまことにまことにありがたくおんれい申あげます さてそのおにつきのうちにしたのおぢさんがおいでなさいましたときぎゆうのごちそうをめしもしたよしがかいてございましたからなをよんさんとはなしをしておゝわらいをいたしました こちらではぎゆうやひつじなんどをまいにちまいにちまいにちたべております こちらはまいにちまいにちごちそうですよ あなたのおてがみやにつきをよむときにはにつぽんにおるようです せんだつておくつてくださいましたにつきのうちにしばやまどんのおばあさんとおつよさんとおいでなさいましたよし おつよさんとはかごしまであそんだことをおぼへておりますけれどもかをはわすれてしまいました まういまはおゝきなおばさんになつておいでなさるでしようとかんがへております ともだちのやつたちがやつぱりときどきあすびにまいりますよしまことによいことでございます とちぎけんのけいぶさん うらはのぴいこおぢのところからたびたびおたよりがございますよし またおてがみをおだしなさるときにはよろしくゆつてやつてくださいまし かごしまのめがねのおぢさんやしらをぢいちさんもおげんきでございませう おついでのときよろしく おきゆうはやつぱりまいにちまいにちまいにちすゑますからごあんしんくださいまし ことしはとちがかわつておりますからかつけはでないだろうとおもつております こちらにすこしこれらがあつたそうですけれどももうすつかりきえてしまつたそうです そのおんちはいかゞですか ことしはこれらはあんまりありますまい よこはまのすこしさきによいおんせんがございますよしまことにちかくてよいことです もしそこのおんせんがわるかつたときにはすこしとをくつてもよいところにあすびながらおいでなさいましよ こちらのやつはみんななつのあいだはぜひいなかにあすびにまいります これはからだのためにもなりまたおもしろいからさ こちらはてつどうがたいへんべんりですからひやくりやにひやくりぐらいのところまでも一にちぐらいにてちよつとゆくことができます べんりべんり したのちゝうえさまからおてがみをくださいましたけれどもべつにかいてあげることはございませんからおへんじはあげません どうかおまへさまよりおてがみのおれいとおへんじをべつにあげないことゝをよろしく申上げてくださいまし おぢさんにもよろしく ひろしさんにもよろしく
 こちらにやまもとといふあぶらゑをかくひとがをります このひとはじぶんでうちをかりておりましてげぢよを一ぴきつかつておりまいにちまいにちにつぽんのめしをたきにつぽんのりようりをこしらへてたべておるそうです そうしてだれでもにつぽんのめしがたべたいときにはそこのうちにたべにゆきます わたくしもなをえもんさんとあしたばんめしをたべにゆくはづです こんにちたべるつもりでそのやまもとのうちにゆきましたけれどもこんにちはあいにくそのひとがよそにごちそによばれてゆくといふことにてとうとうこんにちはこめのめしをくひだしませんでした けれどもめようにちはきつとくひだしませう まづこんどはこれぎり めでたくかしく
 母上様 無事  清輝
  なによりおげんきがだいいちです いつも申上ることですけれどもしんぱいほどばかなものはありませんよ おやめおやめおやめおやめになさいまし あざぶにてはぶんぞうさんもあねさんもおしげぼうずもおげんきのはずめでたし あねさん やどのしんるいのまえへださんががつこうをそつぎようなさいましたよし なをよんさんからききました まういまはりつぱなおやくにんさまでしよう めでたし もしおあいなさいましたときにはよろしくよろしく おゑいさんにはまたこんどもあげだしません まことにもうしわけなし どうかおまへさまよりよろしくぎやつたもんせ

同日の「久米圭一郎日記」より
午后三時伊東氏カチ来一泊 御徒士町通学八月十四日