1905(明治38) 年5月29日 Monday


五月廿九日 快晴

今朝高商学校で一昨日の海戦大勝話が盛んである。殊に村瀬氏の新報は最傾聴された。此事早くも学生間にも知れ渡つて休課の請求一年生の間に起つたが許さずにやつてしまつた。併し専攻一の方はなれ合休業をなし一時間早く引揚げた。午後三時半より入浴して居る内に号外の声がするので彬を走らせる。愈日本海戦の公報が発表された。実に意外千万な好結果である。一昨日昨日の戦に敵艦十三艘を撃沈し六艘を捕獲し、此六艘中には最新最大の戦闘艦アリヨルもはいつて居る。大勝利も実に此上ない大勝利、敵国最後の頼みの綱も茲に全く切れてしまつた。此上は如何なる方法を以てしても戦を継続すべき手段は全く尽きた事である。しかも我国民は愈海陸軍の手練に信頼して戦争の為めに犠牲を惜まぬ様になる。利は益々利にして敗者も愈不利なるは天下の常勢である。こんな事になつても少しの損失位は眼にくれないでもいゝ帝国は愈万歳なるかな。夜メンチェル伝を記す。

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例)「1905/05/29 久米桂一郎日記データベース」(東京文化財研究所) https://www.tobunken.go.jp/materials/kume_diary/873076.html(閲覧日 2024-05-19)