本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1890(明治23) 年8月22日

 八月二十二日附 グレー発信 母宛 封書 たつたひとふで申上ます みなみなさまおんそろひいつもながらおげんきのよしおんめでたくぞんじあげ候 わたくしことはいつもあいかわらずげんきでべんきようをいたしてをります このごろハこゝのいなかニたつたひとりでをりますのではなしあいてハなくまことニさみしいことでございます こまつたもんです いまかきかけてをるゑをかいてしまいましたらぱりすへかへつていきたいとおもつてをります(中略) こちらニハかいてあげるほどなんニもおもしろいことハございませんからこれからすこしづゝせいようのくさぞうしをおはなしのようニかきなをしましてそれをおくつてあげませう ひまのときニすこしづゝかくのですからてがみのたんびニハあげだしますまいとかんがへます こんどかきはじめましたからごらんにいれます むちやくちやがきですからよみにくいでしようとぞんじます このくさぞうしハはじめのほうはあんまりおもしろくございませんがあとハずいぶんかなしくなります まづおはなしのあらましハどらまるちんといふひとが十八ばかりのときいたりやニいつてをりましてあるせんどうのうちニやどをしてをりました ところがそのうちのむすめでぐらじゑらといふやつがとしハ十六にてきりようがたいへんよくところでそのおんながそのおとこニたいへんほれてしまつてそのおとこがふらんすへかへつてしまいますとあとでこがれじニにしんでしまうおはなしです まづだんだんすこしづゝかいてあげますよ めでたくかしく 母上様  新太  せつかくおからだをおだいしになさいまし

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