本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1887(明治20) 年2月18日

 二月十八日附 パリ発信 父宛 封書 寒気厳敷候処其御地御尊公様御始メ皆々様御揃益御清適奉大賀候 私事至而壮健画法二学共勉強罷在候間御休神可被下候 原書記官妻君も先日御安着ニ相成去日曜日ニ公使館ニテ始メテ御目通り仕まわらぬ口ニテ礼など申述へ置候 実ニ世ノ中ニあいさつを云程むつかしき者ハ御座なく候 其折御送り被下候品物も慥ニ受け取早速相開候処母上様よりきぬのはなふき(原氏よりも宜敷御礼申上呉れとの事ニ御座候)及ヒきぬのてふき等 七丁目父上様より雁皮紙 お栄さまよりめづらしき小な箱六七個及きぬのふくさなどニて誠ニ難有厚く御礼申上候 近頃ハ甚ダいそがしく御銘々様ヘ御礼状差上兼候間御尊公様より可然御礼御申上被下度奉願上候 先便よりも申上候通り今月限りにて法律別課教師ヲルシエ氏の授業を断るニ付テハ他ニよき教師を見付ル事こそ緊要なりと存じ兼而法律大学刑法教師レベイエ氏ヘ可然教師ヲ教ヘ呉ルヽ様頼み置き候処もと司法大臣ヲ勤メタル元老院議官カゾトカ申人コソ至当ならんとて来る土曜即チ明日同人へあてゝの書状を一通呉ルヽ筈 而て其手紙ヲ持ち私自身右議官方へ行く積ニ御座候 此ノ人私の望み通り授業を受け合ヒ呉れ候ハヾ実ニ仕合ノ至なりと存候 世間普通の法律教師トハ異ひ一度司法大臣も勤めたる人物故余程益する所有らんと刑法教師モ申事ニ御座候 先ハ御礼旁用事迄 早々如此御座候 頓首 父上様  清輝拝  御自愛専要奉祈候 皆々様ヘ宜敷御伝言奉願上候  何ニカ日本ノ法律ニ関シテ珍シキ書物御見当リノ節ハ御送リ被下度奉願上候

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