本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1887(明治20) 年1月28日

 一月二十八日附 パリ発信 父宛 封書 十二月十六日附之御手紙及ヒ百八十円之為換券本日慥ニ相届き難有御礼申上候 其御地御尊公様御始メ皆々様御揃ひ益々御安康之由大慶至極ニ奉存上候 次ニ私事大元気ニて法律校へも毎日不惰通学致居候間御休神可被下候(中略) 大学校刑法教師の企にて同校一年生中の外国人のみ一週一回相会し各其国の刑法ニ付テの沿革及ヒ現在の法等ヲ互ニ説明スル事と定まり即チ昨日相会し候処都合十一二国ノ人有之其中ロマニヤノ者十五人日本人ハ私一人故来会ニハ是非共何ニカしやべらねバならぬ事ニテ閉口罷在候 日本の刑法(明治十六年ノ版)ヲ友人華族久松君ヨリ借リ又公使館ニて新律綱領改定律例を借り申候 右ノ書ヲ以テ先ヅ当分のしやべり種と為サント考居候 併し維新以前の刑法ニ付テハなにともしやべり様無御座候故維新前の事ニ付てハ何にとも云ハヌ覚悟ニ御座候 若シ何ニカ日本古今ノ刑法ニ付可然書物有之候ハヾ御送リ被下度奉願上候 此ノ二三日ハ天気も可成よろしく公園地などにも随分人出で申候 画学も勉強致し居候間御放念可被下候 先ハ御返事旁々御機嫌伺迄 早々 頓首 父上様  清輝拝

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