本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1885(明治18) 年3月6日

 三月六日附 パリ発信 母宛 封書 一ふでしめしまいらせ候 おいおいとあたたかになりますがみなみなさまいつもおかわりなく御たつしやのはづとぞんじ上ます こちらではなをよんさんもわたしもまことにまことにげんきなことにてりつぱなみやこのなかにねたりおきたりくつたりべんきようしたりしておりますからどうぞどうぞ御あんしんくださいまし なんだとかかんだとかゆつておるうちにもうはや一ねんになつてしまいました まことにはやいことです ほくかいどうのほうからもたびたびごそうがありますよし またみなさんおげんきとの事なによりなによりけつこうなことです こないだひさまつさんのくわぞくさんもこのがつこうをでてしまいましたからこのごろはわたしはひとりになりかへつてよいことです またわたしはなをよんさんのおかげでときときりつぱなくるまになをよんさんやまつがたさんとのつてうんどうをいたします きのうはもくようびにておやすみでしたからこうしくわんにまいりました そうしてなをよんさん まつかたさんそれからかいぐんのはちださんといふひとたちとりつぱなちようどありすがわさんのばしやのやうなばしやにのりぼわどぶろにゆというこうゑんちにまいりました まことにおもしろいことでした こんなばしやにのつてこんなあんばいにていきました 〔図〕なをよんさんたちはみんなたかしやつぽをしじゆうかぶつておいでなさいます こちらのやつはみんなたいていたかしやつぽをかぶつております こちらはこんなばしやわはいてすてるほどたくさんあります けれどもにつぽんにてはさんぎかみやさんたちでなければもちますまいよ よきびんのときすみとまきがみをおくつてくださいまし おねがい申上ます けつしていそぐことではございませんよ なくならないまへにゆつてあげておきます こんどはこれぎりにいたします めでたしめでたしめでたしめでたし おからだをおだいじになさいまし おしぱいはおやめおやめおやめ めで度しめで度し 母上様 ぶじ  清輝拝

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