十月一日附 パリ発信 父宛 封書 (前略)わたしはまだがつこうにはいりませんでやつぱりげしくやにをりまいにち二じかんだけせんせいがきてくれますからこのごろはちようどがつこうにをるときのようにいそがしいことです いまわたしがならつてをるせんせいはあるかんぼうといふひとにてぶんぞうさんをよくしつてをりしじゆうぶんぞうさんのうわさをいたします たいへんしんせつによくをそへてくれます さる二十七日はにちようびでしたからひさまつさん かとうさん くどうさん ふぢしまさんといふひとたちと五にんづれでゑんそくをいたしました まことにおもしろいことでした このぱりすのみやこはちようどとうきようのようなところにてまちのまんなかにひとつ大きなかわがながれております このかわのなをせいぬがわともうします このかわにはたくさんこじようきがございましてしじゆうたゑまなくかよつておりますからたいへんべんりです さてわたしなんどは五にんづれでこのこじようきにのりむうどんと申ところにゆきました このところはまづ東京にたとゑて申ましたならばたまがわのようなところにてぱりすのきんじよのちいさないなかです かわじようきがつくとすぐそのあがりくちにあるりようりやにはいりひるめしをたべましてそれからみんなであるきはじめました このむうどんには大きなもりがございます そのもりをとをりぬけてさきにゆくとべるさいゆと申まちにでます むうどんからこのべるさいゆまで三りのうへもあるでしよう ずいぶんとをいところです さてわたしなんどはむうどんのもりのなかにはいりましてあるきながらはなしをしてわらうやらまたくさのうへにねころぶやらしてそれからとうとうこのもりのなかをとうりぬけてべるさいゆのまちまでゆきこゝからきしやにのりぴーがらがらがらとぱりすにかへりました ちようどろくじはんごろでしたからすぐにめしやにゆきめしをたべました(後略) 母上様 清輝拝
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十二月十三日 火 十一時紫川荘 三時御写真部 七時帰邸 南春峰来 九時晩餐