1892(明治25) 年7月30日
七月三十日 土曜日 (ベルギー・オランダ紀行)
今日ハ朝からあつい 八時四十五分の汽車で立 停車場で教師コラン氏の従弟で久米が知て居る某氏ニ出逢ふた ベルダンニ十時ニ着く 荷物ヲ預て置テ町見物ニ行ク 兵営の在ル地故兵隊多シ 市中の茶屋ニ立寄り休息旁飲む 今日ハフラネルの繻半の上ニ上衣一枚引懸て居る計りだから昨日より少シハいゝ様ダ それでも中々あつい こまるこまる
停車場迄もどつて来て停車場中の料理屋でひるめしと出懸く 此処で此の近辺のある地の名物なる砂糖煮積ヲ一箱買テ三介方へ送る 十二時ニ立ツ 三時ニシヤロンニ着 此処ニ一時間のとまり有り 麦酒ヲ飲み又パンや豚の腸詰や此の地方の名物シヤンパン酒一本の四分の一など買入る 気車の中で食ふが為也 車ヲ乗り替へ四時ニ発し八時半頃ニ巴里ニ御安着 御車ニ被召て御宅へ御帰り 巴里でハ余程雨が降りたと見えて市中がぬれて居テいなびかりが盛ニやつて居るゾ 内に帰て見れバフオンテヌブローからの手紙が一本来て居た 又日本からの届物も持て来て有つた めでたしめでたし
朝九時比ノ汽車ニ乗リダンヲ発シヴェルダンニ赴キ市中ヲ一周ス ガールニテ昼飯シ午後一時カノ汽車ニ乗リ発スシャーロン、エペルネヲ通リ九時比巴里ニ着ク(七月三〇日)