1884(明治17) 年8月28日


 八月二十八日附 パリ発信 母宛 封書
 七月八日七月十二日つけのおてがみと六月二十一日より七月十一日まてのくわしきおんにつきこんにちあいとどきありがたくさつそくはいけんいたしましたところおまへさまおんはじめみなみなさまおんかわりなくおたつしやのよしおんめでたくぞんじあげます さてこないだのびんにゆうびんきつてをおくりくださいましともうしてあげましたらすぐにいぢちきぞうさんにおたのみくださいましたよし そうしてよいあんばいによくそろつてございましたよしまことによいあんばいでした そうしてこのゆうびんきつてをわざわざ八郎さんがよこはままでとりにいつてくださいましてこのつぎのびんからおくつてくださいますよし もうたゞいまごろはぎちぎちぎちとどこかこゝのちかくにきておるでしようとおもいます ひらかわてんじんのなかのすもうにたびたびおけんぶつにおいでなさいましたよしおもしろいことでございましたろう しばやよりすもうのほうがおもしろいでしよう なみだをださないぶんがとくですよ おてがみのうちにかみなりもぢしんもこわくないとかいておやりなさいましたけれどもこればつかりはどうもほんとらしくございません どうもやつぱいせんこにひをつけるやらまたろうそくにあかりをおつけなさるだろうとかんがへます こないだはなをよんさんとやまもとといふあぶらゑのえかきさんのうちににつぽんのごぜんをたべにいきました うまかつたことうまかつたことうまかつたことうまかつたことうまかつたことおさしみににざかなそれからゆはしのやいたのをたべました めしはならちやぢやはんのやうなのでろくはいくひました このやまもとさんといふひとはかをからようすからおかじまさんによくにております そうしておもしろいことをしじゆうしやべつております そうしておまけにたかちようしにてしやべります ひとをわらはせてばつかりおります このひとはじぶんでうちをかりておりましてばゞのおさんとんをひとりつかつております そうしてまいにちまいばんこめのめしをたきにつぽんのおかずをこしらへたべておるそうです につぽんのめしがたべたいときにはみんなこのやまもとさんのうちにいつてたべます やまもとさんはたいへんおりようちがじようずです まるでりようりやのとうりです わたくしのたんじようゆわいにびやひきがありましたよしまことによいことでございました しんじろやきよし なをぼんなどがこゑをかけただろうとをもいます ともだちのやつたちもあいかわらずときどきまいりますよしよいことでございます さる二十四日にはなをよんさんとさんくるうといふきんじよのいなかにあすびにまいりました そのさんくるうまではかはのこじようきがかよいますからそれにのりてまいりました ちようどそこのおまつりでめずらしいものをみました このゑのようなあんばいにふねがにそうございましてそのふねのあたまのほうに一だんたかくたつておるところがございます そのたかいところに十五六のおとこがうすいぢばん一まいにさるまたのやうなみじかきもゝひきをはきにけんばかりのながきぼうをもちてたつております そうしてりようほうからそのふねがだんだんよつてきてちやうどそのふねがゆきするときながきぼうのさきがひとりのやつにあたればふねのすゝむいきおいでおつしやりますからおされたやつはみづのなかにどんぶりことおつこちてしまいそのおちたやつはすぐにおよいであがつてしまいます りようほうのふねがりようほうからよつてくるあいだはたいこたゝきがたいこをたゝいております そうしてしようぶがついたときにがけのうえにおるらつぱふきがらつぱをふきます このらつぱはたゞのへいたいのふくらつぱではございません がくたいのふくようならつぱです〔図〕 こちらはこのごろはもうすこしはすゞしくなりました よいことです おきゆうはやつぱりおこたらずすゑておりますから御あんしんくださいまし あなたさまのとうぢゆきはどうもとじまらないとみゑますね このごろはすもうがたいへんはやりますからうちの新二郎 きよし なをぼんなどもすもうとりをするでしよう すもうとりなんどがうちにもまいりましたよし そのときは八らうさんが一しようけんめいですもうとりのごあいてをなさいましたろうとおもいます いかゞでしたか このごろはやつぱりまいにちはたけにごしつきんでございませう よろしくゆつてくださいまし あざぶのあねおばさんとおしげぼんはいかゞですか いつもおげんき めでたし おしげぼんはまだあるくようになりませんか ことばはどうです したのまさひこはどうです このごろはもうことばもわかるでしよう わたくしはこちらではあかんぼどうぜん こまつたものです うちのおしやちまめはだんだんたつしやにしやべるでしよう なまいきにすこしはしやれたりなんかするでしようとおもいます まずこんどはこれぎり めでたかしく
 母上様 ぶじ  新太郎拝
  まいどながらしんぱいはおやめのほうがだい一です おからだをせつかくせつかくげんきにしておいでなさいまし わたくしはいつもげんきですからおしんぱいにはおよびませんよ みなみなさまよろしく
 かきそへ申上候
  こんどこそおてがみをおゑいさんにもあげませうとおもつておりましたけれどもまたまたとじまりませんでした どうかあなたさまよりよろしくゆつてくださいまし

同日の「久米圭一郎日記」より
清国仏国ト海戦ノ事ヲ国中ニ公布ス八月廿八日