1888(明治21) 年6月29日


 六月二十九日附 パリ発信 母宛 封書
 (前略)わたしのいくがつかうはもうおやすみになりましたからこのごろハちよつとしたほかのがつこうにいつてべんきようをいたしますけれどもおもうようでハございません それですからうちにひとをたのんでひとりでかきたいものとおもいますけれどもこのほうハおかねがたくさんかゝるのでまことにへいこうをいたしてをります さくじつわたしのともだちのれむすでると申あめりかのやつのあねさんがおよめいりをいたしました そのれむすでるといふやつとはこないだ一しよにいなかにいつておつたやつにてそのあねさんもやつぱりわたくしたちといなかにきてをりました(中略)
 このまへのにちようびにはらさんのうちにあすびにいきまして三じすぎからはらさんとおかみさん わたしと三人にてばしやにのりぼわどぶろにゆと申こうゑんちにまいりました はらさんのうちでばんめしをごちそうになりそのうちにあめがたいそうつよくふつてまいりましてもうやむかやむかとおもひながらよるおそくまでながばなしをいたしました なかなかおもしろいことでした(後略)
 母上様  新太拝