1887(明治20) 年9月23日


 九月二十三日附 パリ発信 母宛 封書
 さる二十日のばんがたこのぱりすにかへつてまいりましてうちにかへつてみましたら七月二十二日および八月十二日つけのおてがみそれからまるまるちんぶんなどがついておりましてまことにうれしくさつそくおてがみをはいけんいたしました(中略) わたくしはこといつもながらぴんぴんにてとれぽをると申ところに二十日それからぶらんけんべるくといふところに十日ぶりゆくせるに十日ちようど四十日だけあちらこちらとぶらついてまいりました(中略) ぶらんけんべるくでハともだちのばんはるとらんといふひとのうちに十日ほどやつかいになつてをりました そこのうちのおやぢさんはじめみなみなそろつてよいひとたちにてまことにしんせつにしてくれました このふらんすにはながくをりますけれどもこんなよいうちはありませんよ(中略) そのばんはるとらんさんのうちのむすこのゑどわるどといふやつとまいにちうんどうをいたしました またあめでもふつててんきがわるいとそこのむすめさんのばらんちぬといふひととゑをなどをかいてあすびました このばらんちぬさんはゑがたいへんじようずにてことしはゑのがくこうにて一ばんのほうびをとつたそうです かんしんなものです(中略) ぶりゆくせるではうゑべるといふきよねん一しよにしやしんをうつしたひとのうちをわがやどのようにおもつておひるにいけバひるめしのごちそうになりばんまであそんでをればばんめしも一しよにくつていけとゆわれまたぜいむすいふ大がくこうのせんせいのうちやじろんといふひとのうちからめしによばれたりしていつごつさつごつていねいなめにあいまことにしあわせなことです もう一しゆうかんばかりするとゑのけいこがはじまります そうするとまたたいへんいそがしくなります こんどはゑのほうばつかりべんきようするつもりです そうでないとふたつ一しよにしておつてはほねばかりをれてけいこはなかなかすゝみません(後略)
 母上様  新太

同日の「久米圭一郎日記」より
9h je suis allé à la ruine de la gare pour y faire étude. 4h je suis allé faire étude à côté Montretout. le soir à 9h je me suis promené à la foire avec Sémbon et nous sommes rentrés dans un théâtre, on y a joué opéra comique et on a fini à minuit passé.

(和訳)九月二十三日 金曜日
九時に駅舎の跡地に習作を描きに出かける。四時にモントゥルトゥー辺りまで習作を描きに行く。夜九時にSémbonとともに縁日を散歩して、劇場に入る。喜劇を上演していて、零時半過ぎに終わる。

9/23 Vendredi