1887(明治20) 年9月9日


 九月九日 久し振リニテ天気よし (ブランケンベルク紀行)
 朝九時頃よりエドワル ロベール君(エドワールノ友人)ヘルマン(エドワールの弟)アンジエリナ(エドワールの妹)ト五人連レニテ此ノブランケンベルク邑よりブリユジユ村ニ通ズル掘割ニ舟コギトシテ出掛ケタリ 第二番目ノ橋迄漕ギ付ケ小生ハロベール君ト共ニ百姓家ニ入リ牛乳ヲのみたり 舟ヲ漕ギのどのかわき居りし時ニ鮮しき乳ヲのみたる事故一層美味ヲ感じタリ 十二時頃ブランケンベルクニ帰レリ エドワール ヘルマン アンジエリナト四人ニテイソギ潮ヲあびりたり 此地ニ着してより天気ノ都合ナド宜しからずシテ今日迄水ニ入ラザリシカドモ今日ハイツモより天気モヨク且ツ今日限りの事故暇乞ヒ旁水ヲあびりたるもの也 食事の時も近ケレバ大急ギニテ飛ヒ上リ走リテ家ニ帰ヘリ又潮ニ入シ時ニハカナリ冷カナリシカドモ直ちニ体モアタタマリタリ トレポールニテアビリシ時ノ比ニ非ズ 今日午後二時何分トカノ気車ニテ出立スル積リナリシカドモ皆サンノおすゝめニ依リ五時頃ノ気車ニ乗る事ト定メタリ 食後珈琲ナド飲ミテおかみさん及ビバランチヌさん(エドワールの妹)などと少シ世間話などして笑て居る内ニ早五時近クナリタルヲ以テ主人公及ビジヨルジナ(総領娘)さんに暇乞ひして出立でたり おかみさん始メエドワール バランチヌ マルグリツト ルイズ アンジエリナさん等皆送り来リタリ ロベール君其姉某 カルパンチエ氏の娘某等モ同ジク停車場迄送り来て呉れたり 実ニ御深切難有次第也 気車ハ上等ニ乗リたり 之レ送リ来りたる人ニ対シテかくハなしたるもの也 気車ノ中ニエドワールノ知人某氏乗リ合セ居リ新聞など貸し呉レタリ 一室中二人のみにて大仕合致したり 新聞ヲ読ハアマリ面白クナキニ依リ古今集ヲ取り出して読み時間を費したり 八時二十分頃ニブリユクセル府ニ着シホテルドコロニユト云旅店ニ投ズ

同日の「久米圭一郎日記」より
11h je suis allé faire l’étude à la ruine de la gare ancienne et puis à côté de Suresnes. le soir jeu de domino à notre compagne au café j’ai perdu comme toujours.

(和訳)九月九日 金曜日
十一時に廃墟となった旧駅舎の習作を描きに出かけ、次いでシュレーヌ周辺に行く。夜は女友達も入れてカフェでドミノを遊ぶが、いつものように負かされる。

9/9 Vendredi