本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1893(明治26) 年1月5日

 一月五日附 パリ発信 父宛 封書 新年の御祝儀申上候 去る十二月二十五日暮村出発巴里ニ出て来申候 此の頃ハ巴里ニてハ宿なし故あすここゝの下宿屋をとまり歩く次第 夫レガ為気も何と無く落付き不申候 明日より野村公使の肖像ニ取り掛る積故其仕事相始メ候上ハ心も少シハ静ニ可相成存候 宿ハ諸生町のスフロウと申下宿屋ニ当分極め置き可申候 暮村ニて描申候画四五枚先日教師ニ見せ申候処余程満足の体ニて今度本国へ帰へり行くハ仕方なき儀なれバ一と先帰朝し是非かき溜たる画を数十枚集めて自分の画計の展覧会ヲ此の地ニて開く様可致など色々深切ニ申呉れ候 仕合の儀ニ御座候 当地此の頃ハ寒さも中々強く雪も時々降り申候 余附後便候也 早々 頓首 父上様  清輝拝  御自愛専要ニ奉祈候

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